「療養型病床群」への対応について

    1999年3月24日 日本医労連中央執行委員会


 (1) 医療費抑制政策にそった第二次医療法「改正」(1992年)以降、医療機関の「機能別再編」による 病床削減が強行され、平成5年(1994年)からは療養型病床群制度が始まり、次に予定される第4次医療法「改正」においても現行の「一般病床」を「急性期」(又は短期病床)と「慢性期」(又は長期病床)に区分する方向がいっそう強まっています。
このような中、昨年7月末に8万床強であった療養型病床群のベット数が現在、約2倍の16万床を超え、政府が予定した介護保険対象病床の19万床(2000年度目標)へのかけこみと、2000年の介護保険実施をひかえた「慢性期」病床へのシフトが診療報酬と国や県の補助金に誘導されて全国的に起こっています。一部では、療養型病床群への転換で「一般病床」が無くなるような地域も出てきており、患者・住民の立場に立った地域医療計画の充実がもとめられるとともに、行政の政治的責任と、医療機関の社会的責任が大きく問われています。
 (2) 療養型病床群では、「手厚い介護力とゆったりした療養環境の下で長期にわたる療養を提供する」とされています。しかし、最近のインフルエンザによる患者の集団死亡にみるられるようにマンパワー体制の不備が明らかになっています。また、@診療報酬の「定額制」に起因した問題として、患者の急変やリウマチ患者等の症状の増悪に対して高価な薬が使えなかったり、必要な検査ができなかったりで適切な治療がなされない、A重症になっても引き受けてくれる病院がないなど、転院が困難である、BMRSAなどの感染症に対する対応が弱い、C緊急時に医師がいなかった、など問題が発生しています。
 同時に、長時間2交替の中で、看護職員と看護補助者のペアでは、看護職員が休憩を取ると、無資格の看護補助者が一人で病棟を管理、看護職員は安心して休憩が取れず、看護補助者も不安とストレスが増大する。これでは患者に責任ある看護体制が取れない」など、療養型病床群を支える人員体制(配置基準)と診療報酬のあり方や、看護業務の位置づけなどが大きな問題になっています。
 (3) このような療養型病床群の拡大は、「国民医療の確立」という観点から見て、日本の医療供給体制に大きな歪みを及ぼすものです。厚生省は、「一般病床」を削減し療養型病床群を拡大、さらには、介護保険法がらみで、これを「医療」施設としての位置づけから外し、介護施設へ誘導しようとするものです。そこでは、さらなる看護婦の削減が図られることも自明です。日本医労連は、これまでの運動でも明らかなように、このような形の療養型病床群の拡大に反対し、政府・厚生省に対してその是正を要請していくものです。
 しかし、政府・厚生省が医療費抑制政策を強引に押し進め、すでに療養型病床群が16万床を超える下で、日本医労連としての対応の基本を以下のように確認し、その対応の徹底を各組織に要請するものです。

(注)厚生省では、介護等の看護補助業務を行う者を、一般病院や療養型病床群では「看護補助者」と呼び、特例許可老人病院や老人保健施設では「介護職員」と表現し、特別養護老人ホームでは「寮母」としています。本要請文書での用語は、療養型病床群に関するものなので、介護等の看護補助業務を行う者を「看護補助者」とし、看護婦と准看護婦を一括して「看護職員」とします。

1,日本医労連としての対応

1.療養型病床群に関して、政府・厚生省に対し以下の事項の要請を強める。
 (1) 病院が「定額制」を選択する場合であっても、患者の必要に応じた検査、注射、画像診断、処置等については、別枠で認めるようにすること。
 (2) 地域住民(患者)が必要とする「一般病床」を確保すること。併せて、患者の急変時は速やかに転棟・転院できるシステムや医師等の体制の確保を療養型病床群の許可基準  に入れること。また、医師、薬剤師の配置基準を引き上げること。
 (3) 看護婦確保法・基本指針にそって、看護体制は「複数・月8日以内夜勤」を最低基準とすること。
 (4) 「患者6:看護職員1」+「患者6:看護補助者1」の体制基準を引き上げること。また、現場の実態をふまえ、早急に対患者「看護職員数」を「3:1」とすること。
 (5) 理学療法士、作業療法士、ケースワーカーの配置を義務づけること。
 (6) 以上、診療報酬に関連したものについては、引き上げ等の措置を行うこと。
2.「療養型病床群」での実態をさらに把握し、その問題点を社会的にも広くアピールするとともに、改善の運動を強める。

2,加盟各組合における対応

1.これから、導入が予定されるところでの対応
(1)「療養型病床群」への対応は、患者に対する医療と労働者の労働条件に関わるものであり、「労使協定」の締結を前提に団交での充分な協議の基に、以下の点を押さえてたたかうこと。
@ 「患者に対する医療・看護」の質的低下をきたさないこと。
A 患者の急変時に対応できる、医師体制をはじめ、必要な処置、転棟、転院などができる医療体制を確保すること。
B 勤務体制は3交替とすること。また、夜勤体制は、すでに療養型病床群が導入されている現場の医療・看護と労働実態をふまえ、定められた「療養型病床群」の人員配置基準にかかわらず、看護の「無人時間」を作らないためにも看護職員による3交替、「複数月8日以内」夜勤を追及すること。
    *別紙、日本医労連の「療養型病床群調査」の概要や「看護婦闘争全国交流集会・療養型分科会での確認事項」を参照のこと。
C 療養型病床群制度のもとで、Bを実現することのできない労使関係にあるところでは、看護職員と看護補助者がペアの夜勤体制とならざるを得ないが、その場合でも看護職員の割合をできるだけ多くし、また看護補助者についても、対患者「3:1」の類型(療養T群では定額制の場合「入院医学管理料W」、また療養U群では定額制の場合「入院医学管理料T」など)の選択を検討すること。
 *現実的にも、厚生省の資料によれば、患者対看護補助者「3:1」の類型を選択しているところが最も多くなっています。また、そこでは1日当たり患者数に対する看護職員の比率がほぼ「4:1」となっており、介護職員にあってはほぼ「3対1」を超えています。現行の「6:1」では現場で患者にまともな対応ができないことを示しています。
  D 看護職員の不当な追い出しを許さず、また、看護職員の欠員は看護職員での補充を徹底すること。
(2)2交替勤務を強行導入の施設においては、2交替であっても、@「3人以上・月4回」の夜勤体制、A1人2時間以上の仮眠時間の確保、B「夜勤あけ休み」の保障、などの要求を基本にしつつ、ぎりぎりの条件を追求すること。
    *ここで、夜勤人員を「3人以上」とするのは、2交替制による長時間夜勤の代替え措 置であり、仮眠(仮眠室・休憩室の確保)等も考慮して夜勤人員を厚くする必要があるからです。また、看護職員の仮眠中に、他の1名の看護職員が必要になることから看護職員16人以上、計24人以上の夜勤体制が最低必要になります。また、それ以外に婦長と看護職員の予備人員が必要です。
(3)上記の(1)(2)については、決して最初から2交替を前提として「条件」交渉に入ることなく、まず3交替を追求して粘り強くたたかうこと。

2.すでに「療養型病床群」が導入されているところでの対応
(1)患者の立場に立ち職場の実態を明らかにするとともに、「患者の医療・看護と、医療労働者としての権利を守る」ことを統一的にとらえ、問題点を整理、十分な討議を行い労組の要求としてまとめ、団交等労組の活動を強めること。
(2)要求討議では、職場の要求を基本にしつつ、上記の「これから導入が予定されているところでの対応」などを参考にすること。
(3)看護職員の比重を高めるようねばり強く追求するとともに、「看護職員の欠員は看護職員で補充すること」を徹底すること。
(4)看護補助者の知識、技能の向上のために研修制度等の育成対策を要求すること。
(5)一部に不当(労働者派遣法「改正」案が国会に上程されているが、現在は違法)な派遣形態での看護補助者の導入が行われており、このような場合は全国組合・県医労連・日本医労連の指導を得て直接雇用への転換を求めてたたかうこと。

3,取組みの留意点

1.現行の療養型病床群の人員配置基準は、「患者6:看護婦1」+「患者6:看護補助者(「看護の補助、その他の業務」を行う者)1」となっています。しかし、実際の現場ではとてもこの配置基準では対応できず、看護職員や看護補助者を増やしたり、また看護職員の比 率を高めたりしています。特に、医療・看護内容の低下を最小限に押さえるために、また夜勤時間帯に看護職員が欠けるという危険を回避するためにも、看護婦の配置をできるかぎり多くすることが重要です。

2.病床数は「1看護単位40床以下」というのが政府に対する日本医労連の要求ですが、現場では、現行制度と共に「2−8(ニッパチ)」とも関連させて検討しなければなりません。3交替と「2−8」を確保するためには45〜50床が療養型病床群での採算ベースであるとも言われていますが、この点では労働組合として経営側の責任を明確にして、「2−8」を守ることを基本に対応していくことが重要であり、労働組合・労働者の権利としてとして病床数に縛られることはありません。もともと、現行の療養型病床群の基準が医療・看護も、医療労働者の権利も守れないものなのです。
 このことは、現場から不当な現行基準を変えていくたたかいとしても重要な視点です。

3.療養型病床群の導入は、単に診療報酬にそった収入対策のみから、現在の患者を入院期間で振り分けているような例が多々見られます。そのため、重症や手のかかる患者が多く、療養型病床群の少ない配置人員の中で、必要な医療・看護の提供が困難になるとともに、目の回るような労働実態となっているところも少なくありません。
したがって、療養型病床群導入問題には、まず、地域医療全体の中での自らの病院・施設が果たすべき役割等も明確にしながら、療養型病床群の特性に応じた対象者の検討とともに、現実に必要な人員の確保を追及することが不可欠です。また、理学療法士や作業療法士、ケースワーカー等の配置を促進し、退院に向けた援助体制をつくることも大切です。

4.経営側は、介護保険施設の病床規制や補助金の取得をという観点から療養型病床群への転換を急いでいる場合が多くみられます。しかし、介護保険対応の病床への移行には、行政との「事前相談等」一定期間が必要です。したがって、療養型病床群の導入にあたっては、こと患者の医療に係わる重要な事柄であり、労使間はもちろん、市町村や地域とも充分協議・準備して対応することが必要です。

5.看護職員と看護補助者の業務は、クロスする部分と区分する部分を明確にし、患者の立場に立った視点から各業務が連携かつ円滑におこなえるようにすることが不可欠です。そのためにも、両者の労働条件や業務について労働組合内での民主的な話し合いが重要です。
以  上