第6回「看護婦110番」報告書

2000年11月14日
                             日本医療労働組合連合会

● 仕事が忙しく、看護婦は疲れ果てている
● 医療事故と隣り合わせの忙しさ
● 看護婦にもリストラ! 雇用不安強まる
● 移行教育に高い期待 依然「お礼奉公」も

 日本医労連は、看護婦の生活と労働実態を明らかにし、処遇の改善と地位の向上をすすめるため、2000年11月1〜2日、第6回全国一斉「看護婦110番」を実施しました。全国一斉の実施としては、1997年以来3年ぶりとなりましたが、262件の切実な相談が寄せられました。
 今回の最大の特徴は、仕事が非常に忙しくなって、看護婦が疲れ果てている実態が明らかになったことです。そうした中で、「医療事故を起こさないほうが不思議なほど」など、看護の現場が医療事故と隣り合わせになっている状況が浮き彫りされました。政府の低医療費政策の下で、増員に厳しい抑制がかかり、看護婦の労働量だけが増えているという状況です。
 解雇やいじめの相談が増えており、増員・採用が厳しく抑え込まれている中で、看護婦にも雇用不安が広がっていることが明らかになりました。経営者から年齢等を理由に再就職先は難しいと脅され、厳しい労働条件に我慢せざるをえない、深刻な相談が寄せられました。経営最優先に人手を抑え込んだ中で、有給休暇が取れないとか、残業代の不払いなど、労基法違反の事例が多く寄せられています。経営者の横暴な態度など、医療の職場における前近代的な労使関係を示す相談も数多く寄せられました。
 介護保険制度がはじまった中で、ケアプランの作成などで非常に忙しい職場実態や、赤字などを利用した労働条件切り下げの相談も寄せられました。同時に、介護保険の重い負担や認定制度も不備など、利用者が劣悪な実態に置かれている状況も報告されました。
 看護学生の実態や「お礼奉公」に関しては、一定の改善もあって相談件数は減りましたが、病院を辞めたら学校も辞めさせると言われているとか、「お礼奉公」に関する相談が依然として寄せられました。
 移行教育に対して、准看護婦から強い期待の声が寄せられました。職場での露骨な差別や退職を狙ったいじめなど、准看護婦に対する深刻な差別の相談もありました。
 日本医労連は、寄せられた問題の解決のために、相談者に対して援助を継続するとともに、対政府交渉などを通して、制度的な改善、看護婦の地位向上を求めていきます。

T 実施状況(概要)

1、目 的

(1) 看護婦やその家族、看護学生などから、賃金や労働条件、看護内容や医療事故問題、家庭生活、転職・再就職など、看護婦に関わる悩みや相談に直接こたえ、問題解決へ援助します。
(2) 労基法違反の一掃、劣悪な労働条件の改善を呼びかけるとともに、夜勤体制の充実や看護婦配置基準の改善など、看護婦の処遇改善と地位向上すすめるアピールをおこないます。
(3) 寄せられた実態や不満、悩みをまとめ、行政や医療経営者、関係者などに、その改善を求めていきます。

2、基本日程

2000年11月1日(水曜)10:00〜20:00 および 11月2日(木曜)10:00〜17:00

3、内 容

(1) 電話による直接の相談活動を基本とし、相談者に対しては問題解決への援助等を継続しておこなっていきます。
(2) 相談を受け付ける内容は、看護婦や家族の看護労働に起因する内容を基本とします。介護・福祉分野に対象を広げることも可能としますが、その場合も看護婦を中心とした労働相談として実施します。
(3) 相談者に対して「聞き取りアンケート」をおこない、賃金や労働条件等などについて状況を集約します。

4、実施状況

(1) (香川、佐賀、宮崎を除く)44県が実施しました。設置された電話は約150台、相談員はベテラン看護婦・組合役員など300名程度が交替で当たりました。
(2) 実施日については、2県が11月1日のみとなり、一部時間帯を延長して実施する県がありました。また、6県が看護婦の労働相談にプラスして、介護・福祉職などに対象を拡大して実施しました。
(3) 寄せられた相談は、全体で260件でした。なお、日本医労連や多くの県医労連が「看護婦110番」を常設しており、前後にも一定の相談が寄せられています。

U 相談内容の特徴点

1、多忙な看護婦の仕事実態が明らかに

 今回の「看護婦110番」で特に目立ったのは、業務が非常に過密になっており、残業・長時間勤務が常態化して、看護婦が疲れ果てているということです。
 「日勤は夜10時過ぎ、準夜は朝方、深夜は昼までになっている。疲れ果てて見ていられない」(事例1)、「月6〜7回の日夜勤は特に苛酷。20時前後、遅い時は22時ごろ帰宅し、家で1〜2時間仮眠するだけで、再び24時から出勤。仮眠はほとんど取れず、翌日の12時頃まで勤務することが多い。寝不足による医療ミスを起こさないことが不思議なほど」(事例5)、「日勤・深夜はザラ。日勤中は昼食さえろくにとれない。お茶を飲むのがやっと」(事例17)、「帰ってくるなり、疲れたと言ってバッタリ。明けの日は寝ている」(事例8)など、深刻な実態です。
 過去の「看護婦110番」に比べても、単に夜勤回数が多いとか長時間拘束というだけでなく、看護婦が過密労働の中で限界状態にあることを生々しく物語るものとなっています。政府の医療費抑制策の下で、職場では「効率化」最優先の経営姿勢がいっそう強まっており、増員が厳しく押えこまれています。医療内容の高度化や入院期間の短縮などで、業務量は大幅に増えています。そのため、看護婦の労働はいっそう厳しくなっているのです。
 経営最優先の姿勢の下で、「残業代が支払われない」という事例が多く報告されるとともに、「最近仕事が忙しくなり、辞めていく看護婦が多い。昨日の準夜は大変忙しくて、半泣き状態で仕事をした。有休は昨年4日取れたが、今年は人が足りなくて取れない」(事例14)など、有給休暇が取れないという相談が多く寄せられており、労基法も無視した労働強化に拍車がかかっています。
 「7科の混合病棟となった。7人以上のドクターから指示を受け、仕事内容も煩雑で大変。薬の間違いも多く、インシデントレポートを書く回数が多い」(事例13)など、ベッド稼働率のアップのためでしょうが、全く関連性のない診療科をくっつけた混合病棟化が、いっそう仕事を大変にしている例も報告されました。

2、医療事故への不安感大きく

 業務が非常に忙しいため、医療事故と隣り合わせの危険を感じているという危機感も数多く報告されました。
 「帰宅は21時、22時がざら。休みはほとんど眠ることで終わり、年休は全く取れず、医療ミスが心配と言う」(事例2)、「16時間夜勤だが、労働密度が高く、患者に責任が持てない。仮眠も取れない状況だ。この状況でミスするなと言う方がおかしい」(事例20)などという実態です。
 増員によって、ゆとりと安全の医療・看護を確立することは急務です。
 「賠償責任保険が職場で話題になっているが、入った方がいいのか。最近の医療事故報道で不安に思いながら働いている」(事例116)、「個人責任にされるのではと思い、保険の詳しい内容が知りたい」(事例117)など、医療事故への不安感から、看護婦の「賠償責任保険」に関する問い合せも寄せられました。

3、医療現場でも深刻なリストラ

 社会的にも不況、リストラの嵐が吹き荒れる中で、今回の相談では解雇やリストラの相談が増えるとともに、増員・採用が抑え込まれている中で、看護婦の中にも雇用不安が広がっていることも、今回の大きな特徴です。
 「解雇通知が送られてきた。赤字のためと言う理由で、病棟勤務の看護婦全員を解雇するという」(事例102)、「(不満を言ったら)性格が合わないと辞めさせられた。退職金も払われていない」(事例105)など、解雇問題の相談が増えているだけでなく、「意見を言えば、部長が面談し、辞めるか辞めないかと問われ、問題解決にならない」(事例17)、「意見を言う人はいじめられて、辞めるしかない」(事例19)など、経営者が解雇、いじめによる退職をちらつかせて、厳しい労働条件を押しつけたり、人員増や退職補充を拒否する事例が増えています。
 その背景には、増員、新規採用が抑え込まれている中で、医療機関が採用にそれほど困っていない、看護婦にとっては辞めても再就職が厳しいという実態がひろがっていることが指摘できます。80年代後半から90年代初頭の看護婦不足は、医療機関が募集してもなかなか採用できないというものでしたが、今日では、増員と採用が徹底して抑え込まれている中で、業務量に対して現場での看護婦数が絶対的に足りないという看護婦不足に転化しているということができます。
 「辞めたいが、年齢と准看護婦ということを考えると行くところがない。院長は看護婦は消耗品だと思っているし、婦長は准看護婦は辞めてもとってくれるところはないわよ」(事例112)など、准看護婦への露骨な差別と再就職の困難さを明らかにする事例も目立ちました。
 こうした採用抑制や不況の影響が強いと思われますが、賃金が安いという相談が減ったというのも特徴です。寄せられた相談の中では、「今年の賃上げは千円程度で、定昇もなかった」(事例58)、「扶養手当がカットされた。ボーナスも削減された。しかも、能力査定で減額される」(事例59)など、賃下げ相談が目立つ結果となっています。「聞き取りアンケート」では、集約された分だけの割合ですが、賃金20万円未満が56.7%もあるなど、相変わらず低賃金構造にあることが示されています。

4、労基法違反や経営者の横暴も目立つ

 労基法などの法律違反や、経営者の横暴な職場支配の実態も赤裸々に報告されました。患者のいのちと向き合う医療の現場は、チーム医療をすすめるためにも、本来民主的に意見が言い合えねばならないはずですが、相変わらず前近代的な労使関係が続いているということを物語るものです。
 「患者から苦情がくると1万円の減額とか、電気の消し忘れとかは連帯責任で2千円の減額」(事例79)、「総婦長の気に入らないスタッフは総婦長室に監禁され、仕事をさせてもらえない」(事例81)、「年休を取ると1日で6日分の賃金がカットされる。ボーナスもカットされるし、8日休むとボーナスはゼロになる」(事例51)など、ひどい事例が続いています。
 特に、残業代の不払いが非常に多かったことも特徴的でした。「忙しくて食事をとるのが精一杯。遅くまで残っても、時間外を書けない状態。書いても、婦長が消したりしている」(事例45)、「サービス残業がひどく、あなたの年齢なら時間内に仕事が終わるべきだと言われる」(事例42)、「あなたは新人で仕事になれないため、時間がかかるのだから、残業代は出せない」(事例43)という実態です。経営最優先の姿勢をここにも見てとることができます。
 「細かいことを言うと、辞めてもらうという雰囲気だ」(事例68)、「労働条件が非常に悪い。とにかく婦長とか上の言う通りに何でもやっていかないといけない」(事例82)など、改善を求めることもできず、がまんを重ねている実態です。
 「脳出血のため入院し、復職した。勤務先からは一身上の都合で依願退職を出しなさいと言われた」(事例74)、「産休から出てくると病棟勤務に配置替えになった。直後の検診でチェックを受け、育休を申請したが40日がやっと。勤務交替を希望しても育休を取ったのだからきちんと働くべきだ、甘えていると攻撃されるだけだった。改善されず、ついに退職した」(事例76)など、おちおち病気も出産もできない状態も報告されました。
 「セクハラもひどく、胸や身体を触られる。避けると気に入らず、きつくあたる。院長の顔を見て働くのもイヤ」(事例80)など、セクハラや暴力なども報告されました。

5、介護保険の下での深刻な実態も

 「訪問看護を1日5〜6件担当しながら、ケアマネージャーを兼務。仕事が忙しくて、時間内に終わることはほとんどなく、書類を持ち帰って処理することが多い」(事例131)、「介護保険制度がはじまった途端、事業が赤字になったとのことで、パートに落され、賃金も減らされた」(事例134)など、介護保険で業務が非常に大変になったり、労働条件の切り下げがおこなわれている実態も報告されました。
 また、「デイサービスの利用料などが高すぎて、入所せざるをえなくなった人がいる。ケアプランがたてられている患者が少ない」(事例137)など、利用が高い過ぎることや納得の行かない判定など、利用者の実態も報告されました。
 低所得者などへの減免制度や、労働条件を保障できる介護報酬としていくことが急務です。

6、移行教育への期待高く、「お礼奉公」も依然残る

 准看護婦から看護婦への移行教育について、情報を教えてほしいとか、期待の声が寄せられました。「正看護婦への移行の話があるが、正確な情報を教えてほしい。病院からは全く情報がない」(事例140)、「正看になる移行教育があると聞いて、ワクワクした」(事例142)などです。
 「お礼奉公」や准看護婦学生の劣悪な勤務実態などについても、件数はかなり減りましたが、深刻な相談が寄せられました。改善はすすでいるようですが、依然として法律違反の実態が一定あるということであり、その根絶は急務です。相談件数の減少については、看護婦の労働相談という面を強調して実施したということの影響もあるようです。
 「午前勤務で午後学校。当直も月4〜5回あり、患者の朝食づくりの当番が週2〜3回。夜中もお産の度に呼び出される。とても辛くて退職したいと申し出たら、学校も辞めさせると言われた」(事例148)、「今年卒業した。お礼奉公として、4年間は手取りの半分を病院に返すようにと言われた」(事例151)などです。「昨年まで准看学生だった。学校指定の病院に勤めさせられるが、時給は500円だった。病院によって扱われ方が違う。自分の病院では正看になるなと医師に言われた。やりきれなくて辞めて、正看学校に今春入りなおした。授業の中身の差に驚いている。看護の奥は深い。准看制度は悪だ。なくしてほしい」(事例150)というものもありました。

7、相談件数は262件に減少

 今回の相談件数は262件でした。日本医労連や多くの県医労連が日常的に相談を受け付けているということもありますが、前回の372件と比べてもかなりの減少となっています。
 相談件数が減った大きな要因は、看護婦の増員・採用が抑え込まれ、退職しても再就職先がなかなか見つからないという状況や、世間的な不況の影響もあって、厳しい労働条件にがまんする傾向が強まっているということではないかと推測されます。それだけに、寄せられた相談内容はより深刻な職場実態を描き出すものが多かったとともに、本人から直接ではなく、親など家族、友人からの相談が多かったことも、今回の特徴でした。
 「聞き取りアンケート」では、聞けた分だけでの集計ですが、「職場に労働組合ある」が48.5%と半数近くに達し、前回の24.3%から大きく増えています。これは、政府の医療費抑制策の下で、経営者が経営最優先の姿勢を強め、組合のあるなしにかかわらず、増員を徹底して抑え込んでいることを示していると思われます。
以  上