日本医労連病院給食対策委員会
    2001年3月22日

 日本医労連病院給食対策委員会は、病院給食センター方式(院外調理)に対して、すでに、『日本医労連病院給食政策〜私たちのめざす病院給食〜(二次)』(1998.10)や、『病院給食の業務委託とセンター方式をどうとらえ、どうたたかうか』(1〜3版)において明らかにしてきたところであるが、最近、センター方式(院外調理)を求める動きが日本医労連加盟労組の関係する施設で見られるなかで、病院給食対策委員会として、再度、センター方式に対する基本的見解を明確にし、各労組が対応を徹底するよう呼びかけるものである。

1.病院給食の位置づけを明確にすること

病院給食に関わる問題を検討する際には、まず、その位置づけを明確にすることである。
 患者食は、薬と同様に、食事療法における治療食として患者の健康回復に欠かせないものである。それは、患者の病態に応じて患者個々に対応する治療食として、おいしく安全に調理し、食事を通して患者の健康回復を図るものである。その意味で、病院給食部門はチーム医療(治療)の重要な一部門としての役割を担っている。
 病院給食を充実させることこそ、栄養士や調理師など病院給食部門の労働者の第一義的な社会的任務であり、自らの働きがい、生きがいへの展望をつくる基礎となるものである。
 重要なことは、「病院給食とはなにか」ということ、「どう充実・発展させるか」という視点を基軸にすえて考えることである。

2.情勢を的確に把握すること

病院給食をめぐる情勢を見る場合、第一に注視しなければならないことは、1994年10月、病院給食が有料化(自己負担拡大)されたことである。併せて、健康保険における「療養の給付」としての位置づけを外し、治療食として病院給食を大きく後退させたことである。
 第二は、厚生省(当時)が1986年より病院給食の直営原則が後退させ、業務委託の拡大を図りつつ、センター方式(院外調理)を認め、さらに今年、病院での必置施設としての「給食施設」を政令で後退させ、センター方式拡大へ弾みをつけたことである。
 政府の病院給食政策が、@有料化(自己負担拡大)と、A業務委託・センター方式を「車の両輪」として展開されていることの意味をしっかりつかむことが大切である。
 それは、これまで築いてきた日本の食文化にそった多様な病院給食を、画一的な大量生産によるセンター方式として病院給食のコストを下げ、医療費を抑るねらいとともに、病院給食の市場拡大をねらう外資を含めた大企業の戦略でもある。
このような方向が、病院給食の位置づけからして、病院給食発展の方向に逆行することは、あまりにも明確なことである。このことを、病院給食に関わるさまざまな議論の基本にしっかり据えておかなければ、「木を見て森を見ない」取り返しのつかない誤りを犯すことになる。

3.センター方式(院外調理)の問題点

 病院給食の業務委託が質的低下をきたすことは、すでに私たちの実態調査で明確になっている。業務委託を行う主な動機は、経費(主に人件費)の削減と、労務管理の軽減にある。病院側の経費削減志向は、診療報酬の限界から業者との「契約額」に反映される。そして、受託する業者の側では、利益確保のために人件費と材料費の削減によるコスト削減が至上命令となる。 結局、業務委託による病院給食が、受託企業の営利追求性と、業務委託する側(病院)の経費削減への志向から、@人件費の切り下げに伴う未熟練労働者の多用による技能面の低下、A材料費の切り下げによる給食材料の低下、B医療労働に対する下請け・派遣労働者の意識の低さ(それを規定する就労環境)によって、病院給食の質を低下させ、それが患者に転嫁されることになる。
 センター方式の問題点は、それが主に企業による業務委託によって行われることから、病院給食業務委託の基本的な問題点(@医療機関の責任性の後退、A病院給食の質的低下Bチーム医療の後退、C営利化の促進、Dセンター化の条件整備、等)を根底にもちながら、さらに、日本の病院給食に重大な問題を持ち込むことである。
 強調されなければならないことは、センター方式が日本の病院給食の充実・発展に適さないシステムであるということである。すでに、学校給食のセンター方式がその安全性と質的な面で大きな問題になっているにもかかわらず、患者に対応する病院給食でこれを行おうとすることは、その常識を疑うものです。
 その危険性は、「O−157」事件のようなことが、病院給食センターで起こったことを想像すればよい。衛生管理体制の未熟な、それも人手を減らした経費削減を主目的にセンター方式を行うことになれば、危険このうえないものとなることはあまりにも明らかである。
 このような病院給食センター方式は、患者・国民の医療の充実をめざす日本医労連の運動方針からして認めることはできない。センター方式を阻止し、直営による病院給食の充実をめざすことこそ、医療労働運動、また病院給食部門労働者の大きな社会的任務である。センター方式の問題点については、これまでも以下のように指摘してきたところである。

1.医療機関の責任がますます曖昧になる
 「院外調理」(センター方式)は、院内での業務委託に比べ、使用材料、衛生管理など病院給食業務にとって重要な業務が、医療機関の目の届かないところで業者又はセンター任せとなり、医療機関としての責任を低下させる。また、患者の変化に伴う機敏な対応や、給食部門と看護部門や医師等との緊密な業務の連携が困難にする。

2.個別対応の後退
 クックチルシステムによるセンター方式は画一化が避け難く、これまで蓄積してきた個別対応が後退する。結果として、治療食としての病院給食の充実は二の次となり、材料の大量購入、大量生産、画一化された食材のセンター化、コストダウンを優先する方向を強めることになる。

3.机上の検討で衛生面のチェック体制なし
 厚生省自らが否定してきたセンター方式を「院外調理」として認めたのは、医療の「規制緩和」への政治的圧力によるものであり、病院給食の体制、設備、コスト、質など病院給食をシステムとしてとらえ、総合的に検討して認めたものではない。行政当局が「衛生面の検討のみで認めた」という重大な問題を持ち、その上、衛生管理についてのチェックや、監視体制のないままに、業者又はセンター任せのガイドライン的なものを示すだけの無責任なものである。このようなレールに乗ったセンター方式の導入は、まさに列車を暴走させるようなものである。

4.弁当方式につながる「クックサーブ」
 「クックサーブ」の名による加熱ずみ食材の車による配送・搬入は、病院給食の「弁当方式」につながるものであり、病院給食の質的低下ばかりか、安定供給、衛生管理面でも危険性が高く、それまでは、厚生省自身「病院給食にはなじまない」「ごく例外的なもの」としていた。 『通知』にあるような「65℃以上保持」、「運搬開始から喫食まで3時間」の範囲での車の配送での食材の質的低下は明らかである。また、交通渋滞や、車両事故等での安定供給という点での不安定性もある。さらに、チェック体制のないもとで、食材の「65℃以上保持」の基準が確実に守られる保証はなく、食中毒の危険性を高める。出来上がってから「65℃以上」で数時間も保温した食事を患者に提供しているようでは「サービス向上」にはならない。

4.クックチルシステムをどうみるか

 私たちは、クックチルシステムが、「効率的な作業時間」、「衛生的な管理」、「栄養素を一定期間失うことなく保存」できると言う点では、そのシステムを否定するものではない。しかし、これを日本の病院給食に導入するということになると、以下のような多くの問題がある。総合的に十分な検討をおこなうことが必要であり、安易な導入を行ってはならない。(詳しくは『日本医労連病院給食政策第(第2次)』参照)

1.検討段階のシステム
 センター方式の中心になるであろうクックチルシステムの採用は、@日本では院内における衛生基準のチェック体制が貧弱であること、A日本の豊かな「食文化」になじまないこと、B医療費やコスト面での検討も不十分であること、C大規模な食中毒の危険性があり、「良いから薦めるというものでない」(厚生省)ことなど、今後研究、検討しなければならない多くの問題を抱えていること。

2.院内衛生管理基準、設備基準の不備
日本では、病院給食部門の「設備(施設)基準」が微弱で、その上、クックチルシステムに伴う院内の「衛生、管理基準」がまだまだ不明確である。日米の衛生管理体制の差と、日本の病院でのチェック機能の脆弱さからみても、細菌発生度の高いクックチルシステムの導入は、安全・衛生上から十分な検討を要する。厚生省が「通知」で、「HACCPの概念に基づく適切な衛生管理」をいくら強調しても、必要な機器や人員体制、チェック体制等を保障する診療報酬上の措置が行われていない。

3.衛生面の検討だけで、病院給食トータルが検討されたものではない。
 HACCPシステムは、ハ−ド条件の整備(設備・レイアウト・スペ−ス等)がいわば“土台”となり、ソフト条件の整備(衛生管理・衛生検査・衛生教育)が“柱”となって、始めて“屋根”が架かるというシステムである。コストもかかるが、きちっと“屋根”が架からないと、衛生管理上も大変なことになる。日本では、トータルな検討がされていないのである。

4.日本の「食文化」になじまない
 クックチル方式は、もともと比較的単純で種類の少ないアメリカやヨーロッパの集団給食で用いられてきたものであり、四季にそった和食、洋食、中華、それぞれの組み合わせなど、多種類の献立と、山海の豊富な食材に恵まれ育まれてきた日本の「食文化」にクックチル方式の食事はなじまない。

5.医療費やコスト面での検討も不十分
 クックチル方式の導入について厚生省の『報告書』は、病院及び給食業者の多額の設備投資や経費の増加について指摘しているが、「効率的な医療財源の活用」という点からの「医療費」への影響について十分検討が行われていない。医療費を増大させる可能性もある。

6.大規模な食中毒の危険性
 院外厨房(センターキッチン)での事故による安定供給の不安、そしてなんといっても大規模な食中毒の発生の危険性は否定できない。その影響の大きさを考えれば、危険を侵してまでクックチルシステムを導入することはない。医療に係わる施策は、万全の調査と検討の上に準備しなければ、「命を軽視したもの」との批判を免れない。担当官は、「万一、院外調理によって大規模な食中毒が発生した場合には院外調理そのものを根本から見直すこともあり得る」と述べているが、事故が起こってからでは遅い。

5.地域への配食サービスについて

病院の給食部門による地域住民のために配食サービスについては、これまで述べたようなセンター方式の問題点が改善・克服されない限り安易に実施すべきではない。現時点では、病院給食部門による地域への配食サービス問題を以下のように考えるべきである。

1.地域への配食サービスは、本来、病院給食部門の業務ではなく、現行法規では病院として 実施できない。一部で検討されているように、関連企業を利用して、地域への配食サービス と病院給食をセットで行うとなれば、その企業に病院給食を業務委託することになる。病院 給食業務委託の問題点はすでに述べたところであるが、その企業が病院給食を受託する企業 としての条件を満たしているか否かも問われる。また、一般の病院給食受託企業に委託する ことの問題点は、改めて述べるまでもなかろう。

2.この間の動向をみると、地域への配食サービスと病院給食のセンター方式がセットで検討 されていることが、問題を複雑にしている。そこでは、病院給食センター方式の重大なの問 題点が曖昧にされる傾向にある。性格の全く違う給食を条件も整備されていないのに一気に 行おうとするところに無理がある。やはり、地域への配食サービスは、まず、住民への配食 サービスとして独自にそのシステムや体制、運営が検討されるべきである。

3.現在の病院給食関係の診療報酬では、病院給食も地域の配食サービスも充実できるような システムを構築することは困難である。結果として、人員体制や労働者の賃金へのしわ寄せ、 材料費の削減などを誘発することになる。また、労使関係上の問題も無視できない。病院給 食の業務委託や、問題となっている地域への配食サービス、クックチルシステムなどを行お うとすれば、当然、職場等の労働条件に関連することになり、病院給食の内容と同時に労働 条件での労使の十分な協議が不可欠となる。

 業務委託やセンター方式では病院給食の改善ができないこと、そして、直営によってこそ、栄養部門と調理部門の統一が可能となり、病院給食の発展を展望できることがこの間の病院給食対策委員会の調査ですでに明白になっている。
医療機関にあってきは、医療機関としての責任性を深く認識し、病院給食の「質」を注視、「アウトソーシングすれば経費が下がる」というような経営感覚に陥ることなく、コストを総合的に見ることが求められる。
 私たちも、病院における治療食の位置づけを強め、より積極的に、「直営」でなければできないような患者の立場に立った良い内容の病院給食をめざし、「直営」の良さを追求する改善運動をいっそう強化することが必要である。
 患者にとっては、「直営か、委託・センター化か」は問題でなく、実際にどちらが良い病院給食であるかということ、すなわち病院給食の内容(質)が問われているのであがる。「直営」によってこそ病院給食の充実・発展が展望されることを重ねて強調しておきたい。