医療研委員会第12分科会「薬と社会を考える」運営委員会
病院薬剤師配置基準見直しに関わる態調査結果の特徴
 
1、調査結果の特徴

(1)薬剤師削減の動向

 調査時点では、新定数配置基準に基づいてすでに薬剤師を削減された病院は17%(15病院)にとどまり、削減予定あるいはパートへの置き換えなどもふくめても何らかの影響がでている病院は8%(7病院)、74%(67病院)は削減されていないという結果であった。しかし今後、院外処方箋の発行がふえる傾向にあり、それにともなって削減の動きも活発化すると予想され、今回明らかになった実態や意見を生かした活動の強化が急がれる。

(2)職場の実態と問題点

1) 日々の労働条件の最低保障ともいえる休憩時間がとれない職場が29%もあった。
2) 残業が月間20時間を超えるとの回答が全体で21%あり、そのうちの約半数(11%)は30時間を超えていた。加重平均すると、残業時間の平均は17.3時間。薬剤師の削減状況や経営主体による大きな差異はなかった。
 残業は1日所定労働時間を形骸化するものであり、疲労の蓄積からくる健康破壊、高じると過労死にもつながりかねない。なぜ残業しなければならないのか、その実態に迫ることが必要である。
3) 年休については、付与日数を20日と仮定すると、その半分にも満たない10日未満しかとれないとの回答が、定数を削減されない職場で78%(うち5日未満43%)、定数を削減された職場では88%(うち5日未満61%)に達した。
4) 代休(振り替え休暇)も、定数削減のない職場で22%、削減された職場では34%の薬剤師が「取れない」と訴えている。
5) 宿日直なしの職場が約30%あるが、宿日直の時間帯に薬剤師が不在ということになると、その時間帯の薬剤業務はどうなっているのだろうか。薬剤師が関わるべき業務が発生した場合、薬剤師以外の手で処理されているとすれば、そのことを問題にしなければならない。
6) 女性では生理休暇が「取れない」が、定数削減のない職場で50%、削減された職場では88%に及んでいる。

2、220項目に及んだ豊富な意見や提案

(1) 人手不足、労働強化が薬剤師の健康と仕事の質の維持・向上に悪影響

 今回の調査では、薬剤師配置基準見直しをめぐって、回答を寄せた病院薬剤師の多くの方が「意見」や「提案」を書いてくれたことが大きな特徴である。寄せられた記述、意見、提案の総数は約220項目に及ぶ。集計されたのは90院所のものだが、そこに寄せられた実態や意見は日本医労連のすべての職場で働く病院薬剤師、惹いては日本のすべての病院薬剤師の気持ちを表していると言ってもよいのではなかろうか。
 誌面の都合で意見、提案の原文の掲載は省略するが、寄せられた多数の意見を総合すると、病院薬剤師の職場実態は人手不足で、労働時間は過密、長時間の傾向にあり、それが薬剤師の健康と仕事の質の維持・向上に悪影響を及ぼしていることが読みとれる(下記参照)。
 これらすべての積極的な意見や提案を大切にし、汲みつくして、今後に生かすことが医療研運動と医療労働運動に求められていると考える。また、意見を書かれた薬剤師のみなさんが、その思いを実現するために医療労働運動に結集され、労働組合に未加入の方は組合に加入して、ともに力を合わせていただくことを強く訴えたい。

(2)働く者の権利要求と薬の安全確保、事故防止への強い責任感
 
1) まず、新定数配置基準により「薬剤師が削減された」と回答のあった職場では、「休憩時間が取りにくくなった」「有給休暇や宿直明けが取りにくくなった」「外来調剤と病棟兼務で残業や休日出勤がふえ、サービス残業がふえた」「薬剤師が削減され、助手がふえた」「業務が過密になり、対応に追われる」「入院処方箋がさばききれない。病棟業務が時間外にずれこむ」「かけもち病棟勤務になった。病棟活動の時間が減った」「仕事の質が低下した、患者の待ち時間がふえた」などの影響が拡大している。新定数配置基準が職場の実態に比べて低すぎることは明らかで、早急な改善が必要である。
2) このまま新配置基準を適用していけば人員削減が加速される。それにともなう薬の安全性確保や事故防止についての心配が多数の薬剤師から指摘されている。
 その中で、新基準でも「心配ない」と答えた人も少数(8%)あり、その理由に「いまでも新基準の人数だから」「人数がふえても事故防止や安全確保につながるとは限らない」「職能意識や各自のレベル・姿勢がしっかりしていれば問題ない」などをあげているが、残りの92%の人は「心配」と答えた。
  「心配」の理由としては、「安全確保と事故防止に重点を置かなければならないので他の業務が削減される」「病棟業務と調剤業務を兼務することになれば、そのいずれかにしわ寄せがくる」「薬剤師の数が減れば調剤過誤のおそれが増え、患者一人ひとりに対するサポートが不十分になる」「過密労働で事故を引き起こす可能性が心配される」「業務が多忙になり集中して仕事ができない」「日進月歩の薬の使い方について情報取得の余裕がない」「慎重に仕事を行っているが、時間的にも気持ち的にも余裕がなく、ミスをおかしてもおかしくない状況が生まれる」「利益の追求により薬剤の管理が不可能のため、安全性確保が難しくなる」「管理・チェックは人員がいてはじめてできること」「製剤業務(混注業務)や情報業務の人数が考慮されていないため実際の業務が手薄になっている」「正確を期すのは不可欠だが、さらに外来を待たせない、満足な説明なども必要で、この人数ではすべてが不十分」「完全院外処方になると薬剤師は半減されそうで、1人で100人近くの薬剤管理をすることになり、どう考えても人員不足である」「負担が増えると薬学を十分に生かせなくなる」「定員が減れば病棟でのルーチンワークは不可能。残業が増える」「注射薬の管理・払出し、副作用チェック、処方せんの内容チェック、DI(情報提供)、消毒製剤、服薬指導などにかけられる時間が大幅に減る」「病棟薬剤師の育成が不可能に。目先の仕事に流されてしまう」「余裕がなくなると医療事故が多くなると思う。安全性を考えた基準とは思えない」など、さまざまな角度からの意見が出されている。今回の配置基準見直し(削減)は現場の実態調査に基づかず、現場で苦労している病院薬剤師の意見を聞くことなく決められた基準であることから、こうした意見が出るのは当然である。早急に改善しなければならない。
3) 日本病院薬剤師会と日本薬剤師会の共同要求を支持することに賛成の薬剤師が、回答者の67%を占め、また特定機能病院の定数基準を、そのまま一般病院をふくむ他の医療機関にも適用することを支持できるとする薬剤師が54%いた。このことは政府の定めた新基準が職場の薬剤師にとって、とうてい受け入れられない低い基準であることを示している。
4) 基準の見直しについても積極的な提案があり、その内容を今後の運動に生かすことが重要になっている。
 現実には、問題点をはらみながらも院外処方箋の発行はすすみ、医薬分業のさらなる進展が予想されるが、病院薬局が外来調剤と入院患者業務を並行して扱う状況が当分は続くことも間違いない。提案にある「病棟と外来調剤業務を分けてそれぞれに必要な人員の確保を」という意見は生かされるべきである。
 定数基準を決める際には「調剤以外に注射、品質管理、治験、DI、製剤業務など業務の質と内容に応じた薬剤師数の付加基準を決める」ことも提起されている。
5) 具体的な薬剤師配置数に関して、調剤については「入院・外来処方せん枚数40枚に1人」、入院患者の服薬指導については、昨年の分科会では「患者25人に1人は必要」という意見があり、今回の調査でも「入院患者30人に1人とその端数を増すごとに1人」という提起がされている。

 以上、今回の調査の特徴点について概説した。今回の調査結果を生かして、病院薬剤師の労働条件改善と国民医療改善にふさわしい配置基準要求を確立し、その実現のために病院薬剤師が日本医労連に団結し、医療労働運動強化のために力を合わせることを心から呼びかけて報告とする。