2002年診療報酬改定にむけた
医療労働に関する評価を中心とした要求案

2001年7月・日本医労連政策委員会

 私たち医療労働者は、人のいのちや健康を守る仕事に、生きがいと喜びを持っています。しかし、現実には、圧倒的に少ない人員の中で、「患者さんに十分医療が提供できない」「人の命を守る職場でありながら、目の回るような忙しさで、自らの健康も守れない」という実態です。多くの仲間が燃えつき、現場を去っています。医療事故が続発する今日、患者・国民と手をたずさえ、「安全でゆきとどいた医療を実現したい、そのための人手を確保したい」というのが、私たちの切なる願いです。
診療報酬は本来、医療労働者の専門性と労働を正当に評価するものでなければなりません。しかし、実際には「点数の中に総合的に含まれている」などと言われ、その評価は極めて曖昧にされています。患者のいのちに直結する専門職でありながら、配置基準は病棟看護婦など一部にしかありません。加えて、ライセンスを持つ専門職、夜間や休日にも働く不規則な勤務にもかかわらず、他産業より低い賃金となっています。
安全でゆきとどいた医療を実現するため、配置人員を増やし、仕事内容にみあった賃金が保障されるように、人の命を預かる仕事に対して診療報酬上の正当な評価をおこなうべきです。その立場から、私たち医療労働者は以下の点を強く要求します。

1、安全でゆきとどいた医療を保障するため、看護職員をはじめ医療従事者の手厚い人員配置基準を定めるとともに、診療報酬上の点数評価を明確におこなうこと

@ 医師・看護職員をはじめ医療従事者の人員配置基準を定め、診療報酬上の点数評価を明確にすること
安全な医療を遂行できる人員が確実に確保されるよう、診療報酬上で医療従事者の配置基準を定めるとともに、実際の点数評価でも、その評価内容・点数が明確にわかる形にすべきである。

A 入院の看護職員配置基準は、患者2人に1人以上とし、「1対1」「1.5対1」看護を新設すること。日勤時は患者4人に1人以上、夜勤時は患者10人に1人以上の看護職員を確保できるようにすること
医療の進歩に加え、入院日数の短縮、ベッド稼働率のアップなどによって、看護職員の労働はいっそう苛酷になっている。諸外国に比べ圧倒的に少ない人員配置を見直すことは急務であり、医療事故防止の観点からも、日勤時は「4対1以上」、夜勤時は「10対1以上」の配置とする必要がある。当面、患者2人に1人以上とし、「1対1」「1.5対1」看護を新設すべきである。

B 外来看護料・手術室看護料を新設すること。外来の看護職員配置基準は、患者15人に1人以上とすること
入院日数短縮等の中で、外来看護は重症化した患者への対応に追われ、勤務の多様・複雑化などが起きている。手術室でも高度な手術や長時間手術が増大し、看護職員の長時間過密労働が深刻化している。外来・手術室においても、看護職員の配置基準が定められるべきである。外来でゆきとどいた看護をおこなうには、看護職員が1日に対応する患者数を20名以内にする必要がある。週休や諸休暇の取得を考慮すると、「15:1以上」の配置とすべきである。

C 透析についても、看護職員等の配置基準を定め、点数評価すること
透析に伴う治療は大きく変化してきている。以前は腎不全の患者が大半を占めていたが、最近では多臓器症候群や様々な合併症を併発した患者が増加している。そのため、患者の急変も少なくない。看護職員や臨床工学技士などの配置基準を定める必要がある。

D 精神病棟・結核病棟の特例を廃止し、看護職員配置基準と基本点数を一般病棟と同一にすること。精神科リハビリ・訪問看護等についても同様に扱うこと
精神・結核等においては、長らく少ない人員で収容型の医療がおこなわれてきた。しかし、新規入院患者の入院期間は大幅に短縮されており、患者の人権を保障し、積極的な医療を展開するためには、特例を廃止し、一般と同一の配置基準と点数評価にすべきである。

E 療養病棟・老人病棟については、看護職員配置基準は患者3人に1人以上とするとともに、看護要員全体で患者2人に1人以上とすること
現行の療養型等の配置基準は、看護職員「6対1」、補助者「3対1」が上限という低い基準となっており、患者への看護提供が阻害され、労働条件も劣悪である。少なくとも、看護職員は「3対1以上」、補助者を含めた看護要員全体で「2対1以上」の配置基準とすべきである。

F ICU・CCU・NICU等の看護職員配置基準は、常時、患者1人に1人以上とすること
ICU等については、現行は「常時2対1」の配置となっているが、重篤な患者への対応に追われるため、月10数回の夜勤や残業の常態化、家庭生活への影響など、深刻な労働実態となっている。医療内容もますます高度化する中で、「常時1対1以上」に改善し、安全な医療ができるようにすべきである。

G 薬剤師の配置基準は、入院は患者30人に1人以上、外来は処方箋40枚に1人以上とすること
医療事故でも、投薬ミスが多くあり、さらに患者への服薬指導等の強化が求められている。そのためには、病棟への専任配置など、薬剤師の積極的な増員が必要である。薬剤師の配置基準は本年末に向け議論されているが、その役割強化のため、入院は「30対1以上」、外来は「処方箋40枚に1人以上」に改善すべきである。

H リスクマネージャーや院内感染防止ナースなどの専任者の配置基準を定め、医療事故防止や安全な医療をおこなう責任体制の整備をすすめること
リスクマネージャーや院内感染防止ナースなどについては、配置が一定義務づけされているが、点数評価はほとんどされておらず、現場では兼任が多くを占め、十分な役割を果たせていない。事故防止や安全な医療を確保するためには、少なくとも病院については配置基準を策定し、その点数評価をおこなうべきである。

I 配置基準を定めるにあたっては、3人以上・月8日以内夜勤や完全週休2日制、年休の取得等の労働条件が保障できる人員を確保すること。医療に責任を負う立場から、各種業務に直営原則を貫くとともに、夜間・救急等の医療を保障するため、当直制や待機制でなく、交替制勤務での配置を保障する評価とすること

2、医療従事者の専門性と仕事内容にみあった適切な賃金水準が保障できる点数評価とすること

@ 医療従事者の専門性や仕事内容、世間の賃金相場等を勘案して、適切な賃金水準が保障できる点数評価とすること
安全でゆきとどいた医療を保障するには、配置基準とともに、患者の命を預かり医療を担う医療職の専門性と仕事内容にみあった適切な賃金が保障できる診療報酬とすることが必要である。そのため、適切な賃金水準が保障できる点数評価をおこなうとともに、その評価がわかるように点数化すべきである。

A 入院料等が違っても、医療従事者の各職種1人当りの点数評価は同一にすること
現行の入院基本料のうち、従来の看護料相当分を看護職員1人当りに換算すると、看護婦と准看護婦の比率が看護婦70%以上は「2.5対1」、看護婦40%以上は「3対1」、看護婦20%以上は「4対1」が最も高い点数評価となっている。これは、経済的誘導によって、看護職員配置数を抑制するものである。専門性や仕事内容を適切に評価する観点から、こうした誘導策はやめ、1人当りの点数評価は同一にすべきである。

B 人件費に対応する点数については、毎年改定とすること
人件費のアップ等に対応するため、毎年改定する必要がある。

3、診療報酬を医療提供体制再編の手段とせず、必要な医療に対する適切な評価をおこなうこと

@ 医療機関に対する強引な機能分化の誘導策をやめ、必要な医療体制を地域等の実状にあわせて確保できるようにすること
診療報酬は医療の提供に対する報酬であり、医療提供体制の再編を経済的に強制することはやめるべきである。今日の強引な誘導によって、地域によっては一般病院がなくなるなどの深刻な影響が出ている。必要な医療体制は、地域の実状にあわせ、行政や住民と医療機関が共同して確保していくべきものである。

A 老人医療や入院日数による点数差別をやめ、同一の医療行為には同一の点数評価とすること
老人や長期患者への逓減制の強化は、医療機関からの追い出しなどの状況を生み出しており、即刻やめるべきである。同一の医療行為には同一の点数評価をおこなうことが、診療報酬の基本である。

B 包括・定額払い制の拡大をやめること。包括・定額払い制においても、必要な医療が阻害されないように点数評価すること
医療費抑制の手段として、包括・定額払い制が急速に拡大されてきたが、手のかかる症例の患者の入院が敬遠されたり、過小診療への懸念がひろがっている。長期入院だけでなく、急性期や外来への導入も取りざたされているが、包括・定額制の拡大をやめるべきである。また、包括・定額制の下でも、必要な医療が阻害されないように点数評価すべきである。現行の包括・定額制においても、実態にあわない低い点数評価となっていたり、200床以上の外来診療料70点に代表されるように機能再編の強引な誘導策となっているものがある。これらを是正すべきである。

C 混合診療を導入せず、特定療養費の拡大をやめ、必要な医療については、すべて保険適用とすること
室料などの特定療養費や特別メニューの食事が大幅に拡大され、最近は混合診療の検討もおこなわれている。国民の受療権が侵害されることのないよう、治療の観点から必要な医療はすべて保険適用として、診療報酬で保障すべきである。

D 医療費の総枠制の導入は止めること
医療費抑制の手段として総枠制の導入が取りざたされている。しかし、総枠規制は医療水準を低下させるとともに、いっそうの患者負担と受診抑制をまねくものである。したがって、総枠制は導入すべきでない。

4、「中央社会保険医療協議会」「医道審議会」等の委員に、日本医労連をはじめ医療従事者や病院など現場代表を加えるとともに、ヒアリングなど現場や患者・国民の声を広く聞く場を持つこと

以     上