2001年 看護プロジェクト報告
― 安全でゆきとどいた看護をめざして −

2001年 9月 26日 
日本医労連・看護婦闘争委員会

はじめに

 政府の徹底した医療費抑制策と「効率」最優先の経営姿勢の下で、看護婦の労働条件はかつてなく劣悪になっています。あいつぐ医療事故に象徴されるように、患者のいのちと安全さえ脅かされています。看護婦が生き生きと働きつづけられる職場をつくるとともに、医療事故をなくし、安全でゆきとどいた看護を実現することが、いま切実に求められています。
 今回の看護プロジェクトは、医療費抑制策の下でいっそう強まっている看護「合理化」の今日的特徴点を明らかにするとともに、特に@外来・救急看護、A手術室看護に焦点をあて、要求とたたかいの方向を明らかにしました。入院日数短縮等によって、外来や手術室看護の役割はいっそう高まっており、現場からも要求の具体化やたたかい方の提起が求められていましたが、それらに応えてのものです。また、今日の看護「合理化」はあれこれの業務の見直し、「効率化」に止まらず、経営最優先の旗印の下で全面的な攻撃となっているのが特徴です。そして、看護婦をバラバラにし、看護婦自らを「合理化」の推進者にするやり方が取られています。その2つの手法(B委員会・研修、C人事考課・職能給)についても、看護の立場から分析とたたかいの方向を明らかにしました。
 日本医労連は過去の看護プロジェクト報告において、1995年の「看護業務の見直しをどう考えるか」では、「申し送り・モジュール型継続受け持ち方式・看護支援システム」について、1998年の「ゆたかな看護をめざして」では、「クリティカルパス・病院機能評価における看護の質・長時間夜勤2交替制・小集団管理と能力開発」について、内容と問題点、要求を明らかにし、職場でのたたかいに活用してきました。それらとあわせて、このプロジェクト報告を活用していただければ幸いです。

T 看護婦の劣悪な労働実態と医療・看護めぐる情勢

1、ますます厳しくなる看護労働

(1) 『看護現場実態調査』は、看護婦がますます厳しい状況に置かれ、健康破壊とバーンアウトが進行するとともに、患者のいのちや看護内容にも影響している深刻な実態を浮きぼりにしました。
 4人に1人が、看護婦確保法・基本指針に違反する「月9日以上」の夜勤をおこなっています。勤務時間前後の時間外労働が平均1時間です。「1月20時間以上」は15.7%で、4年前の2倍以上と、時間外労働が増えています。サービス残業は平均4.9時間、「なし」は37.6%に過ぎず、法律違反のサービス残業が蔓延しています。「とった年次有給休暇」も「5日以内」が約3割、「0日」が4.1%と、体調の変化の激しい交替制勤務に従事しているにもかかわらず、休暇も十分に取れない状況です。妊娠中の夜勤・当直免除ですら6割しか取れていません。
 「十分な看護を行っている」と答えたのは8.2%に止まり、「ミスやニアミスを起こしたことがある」が93.8%を占めました。理由としては人員不足があげられています。
 こうした中で、慢性疲労が8割、健康不安が7割にも達しています。そして、約7割の看護婦が「最近、こんな仕事もう辞めたいと思う」と答え、理由は「仕事が忙しすぎる」56.3%、「仕事の達成感がない」32.5%、「本来の看護ができない」30.5%、「夜勤がつらい」25.7%となっています。辞めた後は、「看護とは別の仕事に就きたい」「働かず、家庭にいたい」をあわせると、4割が看護の仕事を離れるという結果です。仕事に追われて疲れ果て、やりがいも達成感も得られない中で、退職に追い込まれています。

(2) 「3020運動」など、在院日数短縮とベッド稼働率・紹介率アップが徹底して追求されています。患者の重症化、混合化がすすみ、ICUさながらの状況です。
 午前退院・午後入院は当たり前で、ベッド稼働率100%を超える病院も出ています。1つのベッドに1日3人の患者を受け入れたとか、1泊2日手術のために午前7時過ぎに入院患者がはいってくる病院もあります。入院当日に手術という例も増えています。
 在院日数の短縮は、それだけ入退院が多くなり、重症患者が増えるということです。看護業務の煩雑化を招くとともに、業務量を大幅に増やしています。患者の顔も病状も分からないまま仕事に就くことも少なくありません。ベッドを埋めるため、違う科の患者であっても受け入れており、看護が複雑化しています。こうした中で、数時間の残業が常態化しており、「日勤・深夜はザラ。昼食さえろくにとれない。お茶を飲むのがやっと」「帰ってくるなり、疲れたと言ってバッタリ。明けの日は寝ている」「神経内科・小児科・産婦人科・耳鼻科・眼科・精神科・心療内科の7科の混合病棟、このような混合病棟があっていいのか」(看護婦110番)など、悲惨な実態になっています。
 入院日数短縮・ベッド稼働率アップは、外来や手術室へも大きな影響を与えています。治療途中で退院し、ドレーン挿入中などの患者が外来通院で治療を継続したり、長時間の輸血や化学療法など、外来での看護が長時間化し、しかも多様・複雑化しています。日帰り・短期入院手術の拡大で、外来での術前検査やオリエンテーションが当たり前になっています。手術室も、手術台の稼働率が上がるだけでなく、技術の進歩で長時間の難しい手術が増えています。しかも、応援体制や一元化がすすめられており、患者の安全がいっそう脅かされています。

(3) しかし、「病院がつぶれたら困るでしょ。働く所があるだけまし…」と、病院経営危機論を繰り返され、増員の言葉も出ないばかりか、看護婦もいつの間にか「経済性」を追求していくようにされています。「スタッフにコスト意識を持たせるため」と、器械や器材に値段表を張り巡らす看護管理者もいます。人手不足でくたくたになりながら、「業務に無駄はないか」「もっと手早くできないか」と、看護婦は追いたてられています。「増員が無理なら、せめて助手でも…」「この業務は看護婦でなくても…」と無資格者に業務が移され、看護婦の後補充がパートや無資格者に変わっていったり、「資格があるからまだいいでしょ」と、介護福祉士が業務区分もあいまいなまま導入されています。
 申し送り廃止やモジュール・プライマリーなどの患者受け持ち制がチーム医療の機能を破壊し、個人責任化の傾向を強めています。そして、「時間内にできないのは能力がないため」と責められ、サービス残業が横行しています。個々の看護婦をバラバラにしながら、能力評価・人事考課をおこない、能力給などの賃金管理に連動させる賃金抑制方針は看護婦も例外ではなくなっています。また、委員会や研修などを通して、看護業務の見直しがトップダウンの姿を隠し、「職場の主体性で自らの提案」という形で、病棟間、個人間での競争をあおりながらすすめられています。しかも、委員会等に人手を取られ、ますます現場の看護婦数は少なくなり、時間外や休みの日にも出席しなければならない状況です。

2、進行する医療の連続改悪

(1) 政府は、医療法改悪や診療報酬を通して、「医療費抑制・医療提供体制の縮小再編」を強引に推し進めてきました。その結果、国民医療費に占める国の負担は、1983年の30.6%から1998年には24.4%にまで減りました。国民・患者の負担は健保本人2割負担、高齢者の1割定率負担、入院給食をはじめ特定療養費の拡大など、際限なく増やされてきました。2002年には、老人医療の70歳から75歳への引き上げ(70代前半の負担は2〜3倍化)や健保本人3割負担など、さらなる負担増が狙われています。
 同時に、医療機関の縮小・再編、ベッド減らしが強引にすすめられています。2000年医療法の改定では、1割程度の病床数の削減をねらって、必要病床数の算定方法が変えられました。また、従来の一般病床が「一般病床」と「療養病床」に区分されました。一般病床を現在の120万床から60万床に縮小し、療養病床に転化させるという計画です。療養病床の配置基準は、患者対看護職「6対1」、補助者「6対1」であり、看護婦の大幅削減がねらわれています。

(2) 「財政経済諮問会議」の基本方針(骨太の方針)や「総合規制改革会議」の中間まとめなどが相次いで出されましたが、医療保険制度の抜本的な改悪がねらわれています。
 そのねらいは第1に、医療費の徹底した抑制、国と大企業の負担の軽減です。医療費の総枠規制や混合診療の導入、患者・国民負担のいっそうの拡大などです。第2には、規制緩和・競争原理などという言葉で、医療・社会保障を財界の新たな儲けの場にしようということです。営利企業による病院経営への参入や保険者と病院の直接契約、医療・介護分野への保険会社の参入、ITなど医療産業の振興などです。保険としての医療をできる限り低い水準に抑え、国の負担は減らして、商品としての医療・看護を国民に金で買わせようというのです。国民の健康権を保障する社会保障制度を空洞化させるものです。また、医師・看護婦などの医療職についても、労働者派遣を自由化しようとしています。
 最近の看護をめぐる動向は、本来あるべき看護の姿から離れて、「医療法や診療報酬が看護の帰趨を決める」といっても言い過ぎではない状況です。競争原理の医療への導入は、病院経営の利益至上主義を加速させ、大量生産の修理工場さながらの状況を生み出しかねません。看護労働も、病棟・外来の応援体制にみるようにジャストインタイム化され、必要な時に必要なだけの看護体制がとられ、派遣労働者にとって代わられることになりかねません。

(3) 政府・財界は、診療報酬による経済誘導をいっそう露骨におこなっており、看護にも大きな影響を与えています。
 1989年にはじまった看護婦闘争は、看護婦不足を大きな世論にし、1992年に看護婦確保法・基本指針を策定させ、診療報酬改定では看護料がアップしました。増員して高い看護料を取得する病院が増え、94年には平均夜勤回数が月8日(日本医労連夜勤実態調査)をきりました。
 しかし、93年の看護業務検討会報告を契機に看護「合理化」が強められ、94年改定では新看護体系の導入で看護料と看護補助料が分離され、看護補助者の拡大と看護業務の委譲を迫ってきました。また、「2対1」以上の看護婦配置基準は見送られ続け、むしろ診療報酬が看護婦配置の上限を押さえる役割を担っています。夜勤実態調査でも、97年以降看護婦の増員に厳しい抑制がかかり、「2対1」の上限近くで横ばい状態になっています。看護婦の労働実態、仕事量からみれば、80年代後半を上回る看護婦不足と言えます。
 2000年4月改定では、看護料がなくなり、入院基本料の中に包括されました。平均在院日数28日を境界にT群とU群に分けられ、看護配置と看護婦比率と平均在院日数で点数が決まりますが、U群では「3対1」が上限とされました。入院日数短縮のために入院後2週間以内だけに加算する項目を多数増やしたり、短期滞在手術基本料が新設されました。
 2002年改定では、看護必要度の導入が確実視されています。政府は「必要もない看護婦を増員して医療費がかさむ。一般病棟で看護婦を増員すれば無条件に2対1まで取得できる制度は改めるべき」との考えを根底にしていますが、増員への規制と一部の加算と引き換えに、「1対1」「1.5対1」看護の新設を阻むものになりかねません。
 診療報酬の改定は、入院日数短縮と看護婦の人員抑制を経済的に誘導してきたのです。「2010年には8〜18万人の看護婦が失業する」とまで言われています。「効率化」優先でなく、看護労働を正当に評価する診療報酬の仕組みをつくっていくことが、医療事故を防止し、限界を超えた看護労働を改善するために重要です。

U 「合理化」許さず、安全でゆきとどいた看護改善を

1、看護「合理化」の特徴点とその背景

(1) 今日の看護「合理化」の最大の特徴は、単にあれこれの業務の「改善」「効率化」に止まらず、利益最優先、増収対策そのものが目標にされて、業務の全面的な見直し攻撃になっているという点にあります。特に、入院日数短縮・ベッド稼働率アップ、紹介率アップが徹底して追求されています。増員を伴わない中で、看護婦の仕事をますます過密にするとともに、混合化の進行などでより業務が複雑化しています。
 同時に、看護婦自らを「合理化」の推進者に駆り立てていくシステムづくりがすすめられているのが特徴です。委員会や研修等を通じて、看護婦自身に「合理化」の旗振り役を担わせています。受け持ち制などで個人責任化が強められ、目標管理が徹底されています。さらに、人事考課や職能給などで、それを賃金や昇進に結びつけ、看護婦を否応なく「合理化」に駆り立てようというのです。目標に届かないと病棟婦長を呼び出したり、「知恵のある者は知恵を出せ、力のある者は力を出せ、知恵も力もないものは辞表を出せ」と公言する経営者までいるほどです。仕事に振り回され、疲労感とゆきとどいた看護ができないことが大きなストレスとなり、すさんだ職場をつくりだしています。

(2) 看護「合理化」がいっそう強まっているのは、政府の医療連続改悪の下で、先行き不安を募らせている医療経営者が、政府の医療政策、医療費抑制策にそった病院づくりを急ピッチですすめているからです。入院日数短縮などの増収対策が徹底されています。同時に、「どんな医療情勢でも生き残れるように」と、総人件費の削減攻撃が強まっています。そのため、ベアゼロ攻撃や賃金体系の改悪とあわせて、看護「合理化」による「省力化」、人員抑制、一元化や無資格者の導入などがすすめられています。
 しかし、政府の医療改悪への追従は、患者のいのちや安全より経営・利潤を優先させるということであり、際限のない「合理化」によって自らの存立を危うくしていくものです。医療・社会保障を充実させる国民的たたかいが求められています。
(3) 政府は、看護「合理化」を繰り返し迫ってきました。
 1984年の「看護体制検討会」は、臨調行革路線のもとで、看護体制は看護補助者を含むピラミッド体制、看護度によるPPC方式、2交替制・当直制・1人夜勤の容認、夜勤専門看護婦の導入、夜勤への無資格者導入、臨時パートの拡大などを打ち出しました。
 看護婦闘争の高揚への反撃として出された1993年の「看護業務検討会報告」は、「看護体制検討会」をさらにすすめ、いっそうの「合理化」を迫るものでした。それ以降、人手不足を解決しないまま、「専門性発揮」「効率化」と称して、クリティカルパスや病棟・外来の応援体制、申し送り廃止、長時間夜勤・2交替制、IT化に伴う看護支援システムなどが次々打ち出されてきました。そして、診療報酬による経済的誘導や国のモデル事業をバックに全国に拡大されてきたのです。

2、要求とたたかいの基本的な方向

A.私たちの看護改善の基本的要求
(1)看護婦を大幅に増やし、安全でゆきとどいた看護を実現できる体制にすること
@入院の看護婦配置は患者2人に1人以上とし、「1対1」「1.5対1」看護を新設すること
日勤は患者4人に1人以上、夜勤は患者10人に1人以上の勤務者を確保すること
A外来の看護婦配置は、患者15人に1人以上とすること
B以上を実現するため、特別の財政措置をおこなうこと
(2)夜勤交替制勤務の心身への負担を考慮し、労働条件を改善すること
@夜勤は3交替制を基本とし、3人以上・月6日(当面8日)以内とすること
A深夜・交替制勤務に従事する看護婦については、常日勤労働者より労働時間を短縮し、週32時間以内とすること
B以上を実現するため、看護婦確保法・基本指針を改正するとともに、財政措置を具体化し、違反した場合の罰則規定を新設すること
(3)患者の状態を把握し、安全でゆきとどいた医療を提供できるよう、病棟規模を当面40床以下にすること。そのため、医療機関への改築等の特別援助を制度化すること
(4)医療事故の調査・分析と防止対策をおこなう第三者機関(仮称・医療事故防止委員会)を設置し、対策を抜本的に強化すること

B.たたかいの方向
(1) 医療情勢をしっかり学ぶ
 看護現場の有り様は、医療法や診療報酬をはじめ、国や財界の労働戦略と多いに関係しています。医療を、労働者を、国や財界がどの方向に持っていこうとしているのか、しっかり学び、現場の現われとあわせて考えることが重要です。私たちの医療要求や改善要求にこそ、医療・看護の未来があることに確信を持ちましょう。
(2) 現場を見直し、安全優先の看護の立場から職場の総点検をすすめる
 次々と提案される看護業務の見直しに対しては、「5つの点検基準」に基づいて、患者と看護労働者の立場から点検をおこない、改善を求めていきます。私たちの立場は、安全でゆきとどいた看護を実現し、看護婦が生き生きと働きつづけられる職場をつくることです。安全が軽視されたり、患者が置き去りにされていないかなど、職場の総点検をおこない、逆に、積極的な看護改善活動、提言活動をすすめることが大切です。
  @看護業務見直しの5つの点検基準=
@患者にとってプラスになるのかどうか
A看護が充実し、看護婦が納得できるものかどうか
B看護婦だけでなく、各職種間の連携にとってどうか
C人員や労働条件の切り下げにならないか
D患者や看護を置き去りにし、「効率化」や「採算性」のみが優先されていないか
(3) 労働組合の団結をかため、要求し、たたかいでとっていく
 「あきらめはエンドレスの譲歩」につながります。医療事故を防ぐためにも、職場を変えることが必須です。モラルハザードの看護現場にもう一度「働くルール」を立て直していくことです。それが、看護の向上のためにも重要です。そのためにも、バラバラにされ、隣の看護婦が何を考え、何に不満を持っているのか、本音で話し合っていきます。
 勤務体制の変更や職能給などは、重要な労働条件の変更です。経営者が一方的に労働条件を変更することは許されません。労使合意が必要です。労働組合に結集し、経営者が一方的に労働条件を切り下げたり、「合理化」を押し付けることを許さないことが必要です。
(4) 患者の人権を守り、医療の公共性を守る
 政府や財界は、社会保障を切り捨て、医療や介護を商品として、財界の新たな儲けの場にしようとしています。「儲かる医療・介護」と「儲からない医療・介護」がすみわけされ、医療の「公共性」が破壊されます。医療改悪を許さず、高い保険料や自己負担に悲鳴があがり、受診抑制を招いている現在の医療政策を転換することが大切です。

V 人権尊重の外来看護めざして

1、外来看護の現状と問題点

(1)過密化・複雑化、様変わりする外来看護
 在院日数の短縮や「短期滞在手術加算」の導入が、外来看護に大きな影響を与えています。手術患者の術前検査やオリエンテーション、治療が、限りなく外来でおこなわれています。自己輸血採血も、最近では外来で実施されています。ドレーン挿入中、酸素吸入中、IVH・リザーバー治療中の患者が、入院から外来治療に切り替えられ、長時間の輸液・輸血や化学療法、麻薬によるペインコントロール、腹水穿刺など、外来看護は高度化・複雑化しています。移送や排泄に介助が必要な患者も増え、入院看護ケアと変わらないケアが、外来でも求められています。外来看護は多岐におよび、患者へのメンタルケアも従来以上に重要です。
 外来看護は、著しく「様変わり」をしています。しかし、この「様変わり」に対応できる体制・人員になっていないところに問題があります。

(2)圧倒的に少ない人員配置、継続した看護ができない
 外来看護婦の人員配置は、外来患者30人に1人以上と決められていますが、診療報酬での経済的保障はありません。そのため、病棟へは正規職員を配置し、外来は臨時・パートが中心というところが多くなっています。医療秘書、クラーク、看護補助者の導入で、診察室から看護婦が消えていっています。一元化や応援体制で「日替わり看護体制」となっており、患者からも不安の声が上がっています。患者の安全性や看護の継続性が軽視されている実態です。
 午前の診療が延長し、午後の診療までに昼食休憩がとれなかったり、昼食が15時を過ぎることも日常的です。一口のお茶も飲めず、トイレも我慢せざるをえない状態です。少ない配置人員や応援体制で、休暇がとりにくくなっています。通常業務がありながら、多くの外来がいまだに当直制です。24時間、32時間の連続勤務であり、ミスが起こらない方が不思議なほどです。

(3)プライバシー保護、患者の人権の立ち遅れ
 苦痛を伴い観察が必要な処置や治療が、カーテン1枚で仕切られた外来処置室でおこなわれていたり、診察室の会話内容が中待合いの患者や隣の診察室に漏れてしまうなど、患者のプライバシー保護のための整備が不十分な問題があります。人権に関わる問題です。
 厚生科学研究(1996年)でも、内科外来処置室を長時間利用した患者が処置室に滞在した時間は平均2.5時間、最長は14.4時間にも及んでいます。長時間の外来滞在が余儀なくされ、昼食持参で、治療を受けながら摂取する実態もあります。長時間滞在患者のためのナースコールやベッド周囲のカーテン、読書ができるような照明、お茶の設置等の改善も様変わりに対応して重要になっています。

(4)広がる予約制
 「診療の予約制」が広がっています。メリットは、患者にとっては待ち時間短縮になり、医療提供側にとっては、事前にカルテや資料の準備がされ、診察時間短縮につながるというものです。しかし、予約数が多かったり、予約の途中に新患が入ったり,救急への対応などで、長時間待つことも多く、看護婦は苦情の対応に追われたり、事前の準備に時間がかかり、精神的にも負担が大きいなど、新たな問題が発生しています。一人の医師が診る患者が多すぎることも問題です。

2、外来看護婦の役割

(1)患者の立場にたった診療の介助と身体的・精神的な援助
 患者が、不安なく診察や検査を受け、納得いく説明を聞き、安心して治療に専念できるための様々な援助が外来看護婦の役割です。病気の苦痛と不安をかかえて待合室で待つ患者に、待ち時間の情報や声かけをおこなったり、患者から情報を聞きカルテチェックをしたり、苦痛が緩和するよう援助することが必要です。診察の介助では、患者と医師の間に立って、両者が最良の関係で診療がおこなえるように、患者の情報を把握し、理解度にあわせた適切な説明と次回の診察や検査の予定などを説明する必要があります。身体的にも精神的にも問題を抱えた患者と医師とのコミュニケーションを円滑にする外来看護婦の存在は治療上も重要です。

(2)機敏な観察と個別の対応
 長い待ち時間、診察中、検査後など、患者を観察し異常の発見につとめ適切な対応をすることが求められます。診察時以外は医師の目も届かず、一人一人の患者の状態観察などに、外来看護婦の役割は欠くことができません。障害のある患者に必要な援助をおこなうことや、精神的に問題を持つ患者などへの個別の配慮も必要です。高齢者や合併症をもつ患者が増える中で、担当科だけでなく患者が必要とする総合的な援助・対応が求められています。また、患者が搬入されて、すぐに対応できる機敏な判断と実践も求められます。

(3)療養相談・生活指導
 ソーシャルワーカーや栄養士、薬剤師などが、外来患者の相談や指導に入る場面が増えています。看護婦自らも、看護相談室・各種学級・教室などで療養相談や生活指導をおこなうことが増えています。しかし、一方では、多くの患者が次々と診察や処置を受けている外来で、短時間の「説明」としておこなわれる場合もあり、個別の問題や社会的背景を考慮した相談・指導はまだまだ不十分です。慢性疾患が増え、在院期間が短くなっている中、療養相談、生活指導は外来看護婦の重要な役割です。

(4)患者と他職種のコーディネーター
 患者が来院してから診察が終わって帰宅するまで、様々な職種の職員が一人の患者に関わります。しかし、看護婦でも患者の背景を知らずに業務をおこなっていることもあります。患者の立場に立ち、医療サービスの向上にむけて、それぞれの職種が専門性を発揮するために、看護婦がコーディネーター的役割を果たすことが重要です。

 外来看護婦には「背中にも目や耳をもて」といわれるように、総合的判断力、実践力が、短時間の中で求められます。外来こそ、実践を積み重ね、患者とともに病克服の共同作業を重ねてきた経験ゆたかな看護婦が求められています。そのためには、一元化やパート・クラークへの置き換えでなく、専門の看護婦配置と増員が必要です。

3、外来看護の課題と要求

(1)改善のための視点
@外来患者のケアニーズを満足させられるものか
A看護がより充実し、看護婦が納得でき達成感が味わえるものか
B看護婦の労働条件が低下しないか
C他職種との連携が崩れないか

(2)改善にむけての課題と要求
@看護改善
・プライバシー保護とインフォームドコンセントの確立
・診療をまっている患者への声かけや巡回、待ち時間短縮の改善
・待合室や診察室の環境整備
・1診察室に1人以上の看護婦の配置
・病棟からの応援体制や臨時・パートへの置き換えでなく、専属看護婦の配置を
・医療秘書、クラーク等の業務は、事務処理・検体・書類の運搬などに限り、患者に対する直接ケアは看護婦の業務とする
・外来看護記録や患者カンファレンス、病棟よりの退院サマリーの活用、事例検討など、外来看護の専門性の確立
A看護婦の労働改善
・看護婦の配置は、患者15人に1人以上に
・カルテや検体の搬送や事務的業務を行う職種の配置と分担業務の明確化
・諸休暇(週休2日制、祭休日、年次有給休暇、生理休暇など)が取得できる人員配置として、指数(1.43)の確保


W 救急医療・看護の充実を

1、救急医療・看護の現状と問題点

(1)公共性が高いにもかかわらず民間依存の救急医療
 救急医療は生命の危機や危険性の高い患者を対象にしており、それへの対応として、装備と人的体制を不可欠の要件とする分野であり、国民的ニーズが極めて高い分野です。
 1964年、救急病院等を定める省令によって「告示救急医療機関制度」が発足しました。現在、救急医療は初期救急(休日・夜間急患センター、休日診療所、在宅当番医制)、第2次救急(病院群輪番制病院、共同利用型病院)、第3次救急(救命救急センター)、高度救命救急センターで構成されています。救急搬送先を設置別に見ると、国立4.8%、公立21.1%、公的10.0%、民間58.7%(1998年消防白書)となっており、公共性の高い救急医療が民間によって支えられている現状です。
 わが国の救急医療は、地域社会の必要な救急医療サービスの評価がされないまま、救急搬送、救急医療体制が取られており、医療機関の努力にゆだねられている状態です。国公立・公的医療機関と、まったく後ろ盾のない民間の医療機関が混在しています。現状では救急告知し補助金を受けている病院でも、看護婦が1人、専門の医師が不在、緊急ベッドがないなど、患者・国民の要求からみるときわめて不十分な体制と言わざるを得ません。
 救急医療も機能分担されており、それぞれに違いがありますが、ここでは、2次救急体制を中心に検討しました。

(2)貧困な体制、劣悪な勤務実態
 医療の進歩により救命は飛躍的に可能となり、看護婦の仕事も高度化・複雑化しています。「3020運動」など紹介率アップが追求される中、多くの医療機関が体制もないまま、どんな救急患者も受け入れており、救急外来の看護婦の仕事はますます過密になっています。また、本来の看護業務にとどまらず、ME機器の操作や心電図検査、放射線検査等も代行しています。極端に少ない人員体制が、労基法違反を他の医療現場以上に生み出しています。看護体制の充実とともに、救急医療に対応できる人員体制の充実が求められています。
 救急外来では、いまだに当直制が多くの医療機関で取られています。休憩時間もまともにとれないような状態で、24時間または32時間勤務する状況は肉体的・精神的限界を超えるものとなっています。交替制勤務となっているところでも、夜勤者数は極めて少ない状況です。重篤な患者の生命維持、病態増悪の防止・回復を目的とし、一刻の気の緩みや観察不足が重大な事態に繋がる救急看護の特殊性からも、その対応にはきめ細かい配慮と緊張が求められています。現在の不十分な体制を抜本的に改善し、地域のニーズに応え、安心して夜間でも必要な救急医療が提供できる保障づくりが重要です。

(3)危険性も高く、迅速な判断が求められる職場
 救急看護には危険がいっぱいです。救急患者の場合は、感染症や既往歴の情報に乏しく、看護婦や医療従事者への感染の危険性が高い状況です。酩酊状態や暴力的な患者への対応の機会も多く、広い意味での危険防止対策が必要になっています。
 生命維持のために、迅速かつ正確な判断と処置が求められるのが救急現場です。最先端の医療がおこなわれ、新しい機器が次々に導入されます。それに対応する看護の教育システムは極めて不十分です。また、過酷な労働のために退職に追い込まれる看護婦が多く、勤務異動が頻繁におこなわれるため、看護集団としての看護の積み上げが成立しにくくなっています。時代の要請に見合った看護の教育システムの構築が求められています。

3、救急外来看護の要求

@ 看護婦の配置は、救急患者10人に1人以上とすること。また、専門の救急医を配置するとともに、検査など必要な専門職を配置し、患者のいのちと完全が守れる体制とすること
A 労働基準法が規定する「当直勤務」(見回り程度で日常業務がないこと)の定義に照らし、救急外来は交代制勤務とし、夜間も複数の看護婦を配置すること
B 看護婦をはじめ医療労働者の安全を守るための対策を強化すること
C 救急に関わる看護婦の研修や訓練を保障すること
D 救急外来看護への診療報酬の正当な評価をおこなうこと
E 国は、救急指定病院に補助金を出すだけでなく、自治体と協力してどこでも迅速な救急医療が受けられる地域医療体制の整備を緊急におこなうこと

X 安全でゆきとどいた手術室看護をめざして

1、手術室看護をめぐる現状と課題

(1)めざましい技術革新と短期入院手術の拡大
 医療における技術革新はめざましく、特に手術関連では麻酔の発達、手術技術・手技の向上、手術器械などの開発により大きく進歩をとげ、長時間手術や、1000グラム以下の未熟児から90歳を越える超高齢者、合併症・感染症等をもつハイリスク患者等の難手術を可能にしました。遺伝子診断・治療、臓器移植、再生医学・医療、内視鏡下手術の発展とあわせた遠隔操作やロボットの使用など、驚くスピードで手術室は変化しています。当然、看護婦に求められるものは広範囲にわたり、かつ多様で高い専門性が要求されています。従来の域では考えられない手術室看護の現状となっています。
 2000年4月の診療報酬改定では、在院日数の短縮をねらい、「短期滞在手術基本料」として、日帰り手術、一泊手術入院に手術加算が新設されました。これにより、日帰り手術等を積極的に導入している病院が増えています。手術当日入院で、患者の情報収集が困難となったり、「手術患者の顔が見えない」状況が生じるなど、医療事故の危険性も拡大しています。

(2)少ない人員配置、終わらない仕事
 看護婦配置について、医療法では病棟・外来に、診療報酬では病棟に基準がありますが、手術室に関しては基準がありません。診療報酬の手術料は、技術料も材料費も検査費もほとんどが包括評価になっているため、看護婦への評価はまったく不明確です。
 「経済効率」が優先される最近の医療動向のもとで、「手術室での効率化」は、@手術台の空き時間を減らし、効率的運用を図るか、A手術件数をどう増やすか、B少ない看護人員でどう対応するかに係ってきます。過密労働でも増員がおこなわれず、病棟や外来からの応援体制で対応している職場も少なくありません。長時間の手術や緊急手術が急増していますが、その対応は残り番、当直、待機・拘束・呼び出し等と、旧態依然の状態です。長時間手術が増大する中で、「日勤者の中の残り番」勤務者ないしは「遅番勤務者」が、残業で最後まで手術についています。超過勤務が月に40〜50時間というのも珍しくありません。
 「17時を過ぎても、どこの手術も終わらず、誰も帰れず、立ちっぱなし、動きっぱなし。やっと手術が終わっても、緊急手術が入れば部屋を片づけて、また準備、そしてまた手術、後片づけ、明日の手術の準備、やってもやっても汚れている器械の山、リネンの山。夜中になっても、朝になっても仕事が片づかない。気がつくと食べるものもなく、お茶を流し込むだけ。明るいうちにはほとんど帰れず星と月の生活。このままでは、安全も看護婦の命も守れない」、こんな悲痛な叫びが聞かれます。
 2001年からの看護職員需給見通し策定にあたって、「手術室・救急外来においても、当直制ではなく夜勤体制が取れる職員配置」が必要と提起した県も出ています。いのちに直結する手術室でこそ、増員と「人間らしい働き方」への緊急な改善が必要です。

(3)いのちと安全のいっそうの重視
 医療事故でも、特に手術室での事故は、より患者のいのちに直結する重大な事故になりやすいものです。実際に重大な事故が発生しています。また、麻酔や意識のない患者に対して、プライバシー保護など高い倫理観と対応が求められます。
 手術室看護学会調査(1999年)によると、外注委託は、「清掃」で手術室の外が6割、室内が4割、「器械の滅菌・洗浄」は2割となっています。高い清潔度が求められる手術室の特殊性から、手術準備や器具のかたづけ、室内の清掃まで看護婦が担ってきましたが、最近は手術室も、「委託・下請け化」が例外ではなくなっています。技術革新は、ME機器を著しく増大・複雑化させましたが、看護業務を繁雑かつ圧迫している一つの要因になっています。「ME機器の保守点検」では約6割が、300床以下の病院では8割が看護婦に委ねられています。患者のいのちに直結する手術室だからこそ、責任の持てる直営でのゆとりある人員配置が必要です。

(4)現任教育の重要性
 手術室では、一般的な手術器械に加え、科ごとの特殊器械が数多くあります。手術手順についても、全科あわせるとおびただしい数です。解剖生理や無菌操作も含め、手術室看護婦には、特殊な専門的知識と技術が求められます。しかし、その教育や知識の習得は、個人任せになっているところが少なくありません。そのため、新人教育や翌日の手術への学習は、残業の上に「風呂敷き残業」を重ねているのが現状です。
 前出の学会調査では、約8割の病院が新人教育のプログラムを持っていますが、指導体制は「プリセプター制」が6割、指導期間は「1年」が5割を占めています。手術室は緊張感の強い職場であり、新人はリアリティショックに陥りやすいため、新人教育が特に重要です。一通りの手術につけるようになるまで3年、ベテラン看護婦になるには5〜6年が必要ともいわれています。教育や新しい手術への対応など、集団的な現任教育が、手術室こそ勤務の一環として保障されねばなりません。

(5)手術室看護のキャリアアップの課題
 手術室では、看護計画や看護記録、術前訪問、看護の評価など、手術室看護独自に積み上げていくキャリアアップの課題があります。しかし、現状では手術に追われ、記録では麻酔記録や手術記録が看護婦にまかされたり、そこに記載していく方法がとられています。術前訪問も対象を限定せざるを得ない状況や、手術が終わって21時頃の訪問など、必ずしも十分な状況にはなっていません。手術室看護の大きな課題でもあります。

3、手術室看護婦の役割

(1)手術室看護の特性
 手術室は、@人命と最も直結し、生態変化も激しく、緊張感が連続する、A技術革新が最も早く導入される、B針さし事故や感染の危険性など、患者にも医療従事者にも危険性が高い、C密室性の高い限られた空間の中で、多種・多様な職種(執刀医・介助医師・麻酔医・看護婦・助手・臨床工学技師など)が役割分担しながら働くという特性をもっています。
 しかし、「手術室は看護婦でなくてもテクニシャンであればいい」「手術室だけの経験では一人前ではない」などと、手術室看護の専門性を否定する攻撃があります。あらためて、手術室看護の専門性や役割について、認識を一致させることが重要になっています。
 手術室看護に求められるものは、手術を受ける患者の看護を発展させ、質を高めていくことです。また、周手術期看護を通して、不安の緩和、プライバシーの保護、患者の尊厳の遵守、安全と安楽の保障をおこなうことです。

(2)患者の立場にたった高い倫理観と人間性
 手術を受ける患者は、自ら「まな板の上の鯉」という表現をしますが、生命を医師や看護婦に委ね、麻酔や抑制などで意思が抑制され、伝達手段を奪われた存在です。裸身で医療従事者の面前にさらされる苦痛、場合によっては人権の侵害にも繋がりかねない状況下におかれます。患者から見れば手術室は密室でもあります。
 そのため、手術室看護婦にこそ、「患者の立場に立つ」ことを基本に、高い倫理観と人間性が求められます。患者の代弁者としての役割も看護婦に期待されます。極めて科学的でなければならない一方で、「人間的な感覚」を置き忘れてはならない、患者と看護婦の暖かい人間関係が求められています。

(3)より迅速、正確、効率的な行動
 手術は、呼吸を始めバイタルをコントロールし、駆血や体外循環など、非生理的状況下で行われる侵襲性の高い治療法です。手術時間が短いほど侵襲も少なく、術後の回復を左右することにもなります。そのために、手術室看護婦には、分単位・秒単位で迅速、正確、効率的な行動が求められます。その裏付けに、予測性、判断力、正確な技術と知識が必須となります。

(4)より高いチーム医療とコーディネイト
 手術には執刀医をはじめ、介助医師、麻酔医、臨床工学技師など、直接に手術に関わる専門職種以外に、患者の家族やリカバリールーム・病棟、薬局、検査室など、極めて広範な職種や部署が関わっています。手術室は、チーム医療の機能がどこよりも高く求められる部署でもあります。そして、そのコーディネーターの役割は看護婦に求められます。

(5)最高水準の知識と技術の維持
 手術には、常に新しい技術や術式が取り入れられるため、対応する看護婦にも最新で高度な知識と技術力が求められます。ILO看護職員条約で「専門職労働者の条件」を@高度の知識と技術を必要とする、A知識と技術が常に最高水準に維持される、B職業の独自性がある、C国民全体に責任を負う仕事であると規定していますが、まさに手術室看護婦に求められている専門性と役割ではないでしょうか。

4、手術室看護の要求

(1)医療法・診療報酬で看護婦の配置基準を明確にすること
(2)手術室の特殊性を加味し、以下の人員配置にすること
     婦長・主任+(手術台×3人+α)×諸休暇保障の指数(1.43)
@手術には、少なくとも手洗い看護婦1人と外回り看護婦2人の3人が必要。したがって、手術台1台につき最低3名の看護婦を配置する
A手術室は、施設の規模やシステムにより、手術器械のセット係、術後器械の洗浄・消毒係、器械のクリーニング・整備係などが配置されている。施設の状況に合わせて【+α】を配置する
B休暇や諸権利を取得するためには、1.43の指数が必要
C看護助手などの無資格者は、上記の基準以外として、プラスする
(3)労基法違反の宿日直勤務や拘束・待機制はやめ、交替制勤務とすること
(4)安全性の視点からも、臨床工学技師など必要な専門職種を配置すること

Y 私たちの求める委員会・研修・研究活動

1、現状と問題点

(1)委員会・研修を使って、「合理化」を推進
 「経済効率」を最優先にした経営者が、「看護改善」「看護の効率化」と称しながら、看護業務や看護システムの「合理化」を加速させています。その特徴は、「トップダウン」の上からの押しつけを隠し、委員会・研修・研究などを通じて看護婦を駆り立て、いかにも現場からの提案という形で推進されていることです。申し送り廃止、プライマリー・ケアシステム、クリティカルパス、プリセプター、病棟・外来の一元化、長時間夜勤・2交替制、入院日数短縮などが、委員会活動の中で急速に進められようとしています。
 看護婦の「主体性」や「専門職として知識や技能を伸ばしたい」という誰もが持っている要求を利用し、巧妙に企業目標を忍び込ませ、競争心を煽りながらおこなわれています。病院経営者は経営危機論を煽り、職員の経営参加型の意識改革を最大の課題として位置づけ、使命感、責任感、病院への帰属意識(企業人)の育成をねらっているのです。

(2)多すぎる委員会でますます過酷な状況に
 「委員会は必要だが多すぎる。勤務時間外や休日にも参加をしている。内容や種類を検討し、必要なものだけにしてほしい」「休みの日や夜勤明けも委員会に出てきて、私生活はガタガタ」「ギリギリの人数でやっているのでしわ寄せが大きい。患者よりも委員会の方が大切なのか」など、多すぎる委員会に不満の声があがっています。
 医療の高度化や入院日数の短縮、ベッドの稼働率アップなどで、現場は煩雑で過密労働になっています。その上に、委員会や研修、その準備や報告書などの持ち帰り作業と、残業の上に残業の上乗せ状態となっています。人員不足の中での委員会や研修への参加は、時には患者を置き去りに会議が優先される場合も少なくありません。会議への出席も半強制的に、夜勤明けであろうが、休暇であろうが駆り出されています。
 欠席が重なると、「意欲のない看護婦」のレッテルを貼られ、昇進・昇格に影響したり、最近では、能力給など賃金評価にも繋がっています。過密労働に加え、委員会・研修・研究でも看護婦が追いつめられている状況が全医労松山のアンケートでも、岩手県医療局労組のアンケートでも明らかになっています。最近の委員会活動や研修など、患者中心の看護の視点からも、看護婦の働き方についても、見過ごしにできない問題を抱えています。

2、本来的意義に立ちかえったものに

(1)委員会・研修の本来的意義
 本来、委員会や研修・研究などの活動は、看護実践をより豊かにするためのものでなければなりません。ナイチンゲールは、「看護そのものは、病人のベッドサイドや病室内または病棟内においてのみ教えうる。看護は、講義や書物を通して教えうるものではない。講義や書物が補助的なものとして使われるのであれば価値があるのだが、そうでなければ書物に書いていることは役に立たない」「理論というものは、実践に支えられているかぎりは大いに有用なものだが、実践の伴わない理論は看護婦に破滅をもたらす」と述べています。
 「患者より委員会の方が大切なのか」とのアンケートの声からも、現状の本末転倒した状況を改善し、看護業務の向上に役立つ無理のない内容への改善が必要です。

(2)委員会・研修・研究活動の改善にむけた要求
@業務の一環として勤務時間内におこなう。時間外になった場合は時間外手当を支給する。
A日常業務に支障をきたさないよう、委員会や研修の数や開催時間等を調整するとともに、必要な増員をおこなう。また、休日出勤や夜勤明け参加とならないようにする。
Bテーマの選定は、経営目標の押し付けではなく、現場の声や主体性を尊重して、看護内容の向上を目的としたものにする。
C職場間の競争や心理的競争を助長しない。また、査定や人事考課の対象としない。
D研修や学会等への参加は施設負担・出張とし、参加の機会均等を保障する。
E業務と自主的な研究等は明確に区別し、自主的な研究活動への参加を強制しない。

Z 職能給・人事考課の導入は許さない

1、背景と導入のねらい

(1)医療にも人事考課・職能給が
 産業界では、80年代の後半から、日経連の賃金政策の動向にあわせて、「総額人件費管理」という考え方がひろがり、能力主義賃金導入の動きが強められてきました。医療や教育の分野は、@業務が独立的でなく、すべてが集団業務、A公共部門、B専門的な職種の集団で能力評価の統一性がむずかしいという理由で、能力主義人事への転換は躊躇されてきました。
 しかし、生き残りをかけた病院間の競争を背景に、病院も例外ではなくなり、人事考課と一体に能力主義賃金・職能給が導入されてきています。日本看護協会の「2000年病院看護職員の需給状況調査」によると、「能力評価を行っている」30.1%、「能力評価表・評価マニュアルがある」73.6%、「人事考課を行っている」39.7%となっています。
 「病院看護機能評価表」の中にも、就業規則の評価項目に、「人事考課は明確、合理的基準で行っていますか」という項目が入れられており、人事考課・職能給の導入が誘導されています。考課の要点は、@業績(仕事の成果、勤務遂行能力など)、A仕事に対する態度(注意力、協調性、積極性、勤勉性、創意工夫など)、B能力(指導力など)、C性格(活発性、粘り強さなど)となっており、考課の活用は、@昇給時の査定、A賞与額の査定、B昇進・昇格時の査定、C配置転換時の参考、D教育・指導時の参考です。

(2)ねらいは総人件費抑制と「合理化」の押し付け
 日本賃金研究センターの楠田丘氏が「病院経営のコスト状況をみると、まず人件費で49%、ついで医薬品や医療材料などの材料費が約30%になっている。特に目につくのは、看護婦の賃金上昇である」と述べているように、看護婦の賃金抑制に最大の照準が当てられています。
 ある病院長は、「何のための能力主義かというと、職員の差別化を図り、優秀な人材を厚遇できるような環境を整えるため」と言っています。職場の競争をあおって、ごく一部の看護婦の賃金を引きあげ、圧倒的多数の看護婦の賃金を引き下げようというものです。職能給は単に毎月の賃金の抑制にとどまらず、賞与・一時金、退職金、年金などもふくめた生涯賃金の抑制にもつながっていきます。
 職能給は人事考課とセットで導入されます。「勤務成績や功績を公平に調べ、評価する」と言われますが、結局は経営者が期待する労働者像に基づいて、コスト意識・管理能力・やる気等が評価されます。自己目標の達成度(目標管理)とあわせて評価されるのです。看護婦の目標管理が最近徹底されていますが、職能給の導入でそれが賃金と連動されます。経済的な圧力の下に、経営者の求める労働者となることが求められるのです。結局は「合理化」に駆り立てられることになるのであり、看護への影響も甚大です。

2、問題点

(1)チーム医療と患者本位の看護に逆行するもの
 医療は患者を中心に、医師・看護婦をはじめ多くの専門職が、お互いの自主性・自立性を尊重しあって、チームでおこなうものです。労働者同士を競わせる人事考課や能力給は、チーム医療を破壊し、患者中心の医療・看護を掘り崩すものです。例えば、患者が満足して退院した場合、それは個人の業績として評価できるのかということです。集団としての成果、病院全体の成果である場合が大半です。
 競争をあおる制度のもとでは、集団としての工夫や創意が失われると同時に、足の引っ張り合いも起きかねません。チームとして、特に交替制勤務で患者をみる看護では、全員が協力し合い、チーム全体の技量を向上させてこそ、よりよい看護が実現できるのです。人事考課や職能給は、そもそも看護に馴染まないものです。

(2)真に公平・公正な評価はできない
 人事考課が導入された職場では、「まず、評価する人を評価する必要がある」「あの人に評価されると思うとぞっとする」「それぞれの持ち味を生かしてチームでおこなうのが看護。心ゆたかな集団に人事制度はいらない」など、疑問や不信が根強く出されています。
 いくら評価の仕組みを精緻にしても、人間がおこなう以上、好き嫌い・先入観・思惑・甘辛・イメージなどの主観がどうしても入りこんでしまいます。そもそも、その評価基準には、看護実践能力だけでなく、経営者の主観的な「企業人」としての期待像が盛り込まれるのであり、真に「公平・公正」な評価ではないのです。
 医療事故でも個人責任の追及が強められ、ヒヤリ・ハットまで評価の対象にする病院がある中では、公平な評価はなおさら期待できません。

(3)かえってやる気を削いでいく
 冨士通では1993年、いち早く成果主義賃金が導入されました。社員1人1人が目標を決め、目標ごとに自己評価し、直属の上司と面談(1次評価)、幹部社員が2次評価をおこないます。高評価が続けば昇給・昇進しますが、低い評価が続けば降給という制度です。導入の結果、「目標にむけて努力しても、がんばりが評価されないことがあまりに多くてむなしい」「上司におべんちゃらを言う人もいるし、弁の立つ人ほど得という雰囲気」「脚光を浴びる仕事で評価を得たいがために、地味だが大切な仕事を避ける傾向が出てきた」「面倒なことや半年で評価の出ないことは、やりたがらない(チャレンジ精神がなくなる)」という傾向が広がっています。かえって企業の活力を奪っているということで、見直しが始まっています。
 この制度の下では、高い評価を得て賃上げを実現したければ、高い目標を掲げて人以上に努力しなければなりません。それを達成できても、次はもっと高い目標を掲げなければなりません。長時間過密労働と精神的ストレスにさらされ続け、結局は能率も削がれていきます。また、多くの職員は不公平な評価に対する不満や脱落感から、かえってやる気が削がれていくのです。

(4)人のいのちを守る職場で、個人と労働組合が軽視されていく
 この制度は、経営政策に従属する労働者づくりをねらうものであり、「個の尊重」といいながら、反対に「個の企業主義への埋没」「個の軽視」につながるものです。また、人事考課による労働者の個別管理は、労働者の団結を破壊し、労働組合を弱体化させるものです。個人の軽視や労働組合の弱体化は、もののいえない職場、民主主義のない職場につながります。それでは患者のいのちや人権も守れません。また、賃金だけでなく、サービス残業や労基法違反がさらに拡大され、いっそうの長時間過密労働を招くものです。
 患者のいのちや人権を守る医療の職場だからこそ、最も人権が尊重される必要があるのであり、誰もが専門職、同じ医療人として対等に話し合えてこそ、患者の人権も守られ、よりよい医療や看護が実現できるのです。

3、たたかいの方向

(1)人事考課・職能給のねらいをしっかり職場討議し、導入を許さない
 人事考課・職能給は、賃下げと経営いいなりの労働者づくりが目的です。また、チーム医療に逆行し、看護の低下につながるものです。そのねらいや本質をしっかりと職場で学習し、団結を強化して、導入を許さないたたかいが必要です。
 また、チーム医療の破壊やいいなりの労働者づくりは、医療や看護のあり方や職場の民主主義にもかかわる本質的問題です。導入反対に止まらず、医療・看護の向上、働きつづけられる職場づくりをめざす総合的反撃が必要です。

(2)人件費の削減・抑制には反対。看護の専門性に見合った賃金保障を
 医療労働は、人間の生存・健康の保持・社会の安定・社会の経済発展にとって不可欠なものであり、医療労働者はきわめて重要な社会的責任を担っています。その賃金・労働条件は社会的役割にふさわしいものであるべきです。
 しかし、医療労働者の賃金水準は、他産業に比べて2万円以上の格差があります。ILO看護職員条約では、看護婦に比肩しうる専門職として教員があげていますが、年収では233万円の格差(2000年医労連調査)があります。また、同一の診療報酬・同一の資格でありながら、地域間・施設間でも大きな格差があります。この是正こそ、先決課題です。看護労働を正当に評価し、専門職としての仕事内容に見合った賃金に改善させることが必要です。

(3)チーム医療を守り、全体の看護水準を向上させていく
 よりよい看護をめざして、相互研鑚しながらがんばっている看護集団を分断し、個々の看護婦を等級づけ、差別を増大することは、労働者間に不信と不満、不団結を生じます。看護の基本は、患者が納得できる看護が提供できたかどうかです。個々の看護婦が評価されるのではなく、看護集団としてどのような看護ができたかが問われます。
 分断や個別評価を許さず、チーム医療を守るとともに、全体の看護水準を向上させ、安全でゆきとどいた看護をつくりあげていくとりくみを前進させることが大切です。

(4)労働組合への団結を強化し、労働条件改善の砦にしていく
 「経営効率」を最優先にした経営者は、人件費抑制を主課題に攻撃を強めています。看護現場実態調査でも明らかなように、絶対的人員不足の下で、サービス残業の恒常化、他産業と比較にならない高い労基法違反率、不十分な母性保護など、看護現場は深刻な実態です。経営者言いなりの労働者づくりは、どのような条件でも黙って働く看護婦づくりです。労働組合への団結を強化し、働きつづけられる労働条件と患者本位の看護をつくるとりくみを強化していくことが大切です。

(5)医療の公共性を守り、儲け本位の場にさせない
 医療や看護は本来、患者のいのちをまもり、国民の健康権を保障し発展させるという、きわめて公共性の高い仕事です。そして、国民の基本的人権を守る仕事です。
 政府の医療費抑制策や、医療を財界の新たな金儲けの場にしようという方向は、医療の公共性を根本から破壊するものです。政府の医療改悪攻撃に断固として反対するとともに、経営最優先から患者のいのちと人権が優先される医療・看護への転換のためにたたかいを強化することが大切です。

以     上