【提言】

私たちのめざす医療提供体制のあり方
− 地域医療実態調査から見えてきたもの −
2003年 3月
日本医療労働組合連合会


はじめに

 相次ぐ医療保険制度改悪や診療報酬改定によって、患者・国民の負担は大幅に引き上げられてきました。不況の深刻化もあいまって、保険料の滞納や経済的理由からの受診中断が広がっており、公的医療保険制度は重大な危機に直面しています。制度改悪や診療報酬マイナス改定などによって、医療機関も大きな変容を迫られており、先行き不安が広がっています。超過密労働の進行、賃金抑制・改悪、統廃合、下請け拡大など、医療労働者の状態悪化もすすんでいます。こうした下で、医療改悪反対署名が3000万筆集まり、健保3割負担・老人医療費軽減の世論と運動の高揚など、政府のすすめる医療大改革に、広範な医療関係者や国民の批判の声が広がっています。
 政府は、医療費(国庫負担)を徹底して押さえ込もうと、こうした改悪をすすめてきました。現在、政府部内からも、患者・国民負担の引き上げは限界という声が出ていますが、今後の「医療抜本改革」は、@医療機関の機能分化による縮小再編、A医療保険制度の統合と高齢者医療制度の創設、B診療報酬体系の再編を中心にすすめられようとしており、さらにC医療の営利化・市場化が執拗に進められようとしています。いのちと健康を守るために、国民的なたたかいをいっそう発展させることが求められています。
 国民の医療と医療提供体制が深刻な危機に直面している下で、日本医労連政策委員会は、地域医療実態調査を実施し、患者・国民と医療機関の生の実態をつかむとともに、それを踏まえて、今後の医療提供体制のあり方についての本提言をまとめました。
 組合員はもとより、国民的な論議を呼びかけるとともに、この提言が、社会保障闘争の前進と21世紀のよりよい医療実現の一助になれば幸いです。

第1章 地域医療実態調査結果の特徴点

1、地域医療実態調査の概要
(1)調査の実施概要
@実施時期2002年6〜7月
A実施地域高知市・土佐市、京都市上京区・北区、長野県佐久地域、横浜市鶴見区
B実施形態患者・住民組織や行政、医療機関、福祉施設等を訪問し、懇談・聞き取り調査を基本におこないました。また、補充資料とするため、調査した医療機関の患者へのアンケート調査を若干実施しました。
(2)実施地域の概要
@高知市・土佐市
 高知県は、高齢化がすすんでいるとともに、病床数の多い県です。県・自治体との懇談や統計資料などを通して、高齢化・過疎化の中での高知県全体の医療実態を把握するとともに、医療提供体制再編の下で積極的な展開をはかっている特徴的な医療機関との懇談、聞き取り調査をおこないました。自治体合併の動きが加速している中で、経営改善を実現したところなど、自治体病院の動向も探りました。
 共通して出されたことは、「自己完結型から地域完結型への転換」、地域でのネットワークづくりの重要性です。また、患者・住民の医療要求に依拠して今後の展開をすすめていくことの大切さです。
A京都市上京区・北区
 西陣など伝統的な地場産業、中小・零細企業の多い地域での調査となりました。
 不況の下で、深刻な実態が広がっていました。市営住宅の滞納世帯が4軒に1軒など、多重債務や日々の生活に追われ、医療機関にかかるどころではない状況です。地域の健保組合の解散、無保険者の増加など、国民の生活の場から、皆保険制度の空洞化がすすみつつある状況が明らかになりました。
 多くの医療機関で、患者が減るとともに、地域の高齢・長期の入院患者をかかえる実情から、政府の現施策の下では一般病床を大幅に減らさざるを得ない状況でした。このままでは気軽にかかれる医療機関が激減しかねない事態です。
B長野県佐久地域
 保健予防、健康づくり活動など、先進的な活動を展開してきた地域での調査でした。長寿と医療費が低いことの原因については、食生活や高齢まで働くなど体を動かす効用とともに、長年の保健活動の寄与した役割の大きさが口々に語られました。
 過疎・高齢化に伴って、農村部でも老人独居、老々世帯が急増しており、在宅・介護の手厚い体制づくりや施設整備の必要性が強調されました。特に南佐久地域では、自治体が各世帯の状況を把握し施策をすすめるとともに、健康づくりやボランティア活動に、住民が生き生きと参加していました。長年にわたる保健予防活動の成果です。
 また、医師確保の大変さが語られました。地域の一般医・総合医とともに、専門医の不足も出され、国の医師養成のあり方が厳しく批判されました。
C横浜市鶴見区
 京浜工業地帯の中小企業の多い地域と、山の手の住宅地を抱える地域での調査でした。
 ここでも不況が深刻な影響を与えていました。「ある程度元気なうちはまだいいが、倒れたら誰も面倒を見てくれない」という言葉に象徴されるように、医療・介護を受けられない事態が広がっています。特に、痴呆老人について、受入施設がない、片時も眼を離せないなど困難な状況が報告されましたが、他の地域にも共通する大きな問題でした。
 大都市では地域社会が希薄になっていますが、自治体の保健活動の後退が、事態をいっそう深刻にしていました。介護保険もあいまって窓口には相談が殺到していますが、その対応さえ満足にできず、地域には人知れず取り残された人々が多く存在する状況です。
(3)患者アンケートの結果概要
 地域医療実態調査の補足資料とするため、懇談・聞き取り調査に協力いただいた医療機関の患者を対象に、「地域医療充実に関する患者アンケート」を若干実施しました。なお、回答数は404名です。
 設問1「『病気やけがはなるべく近くの診療所が受けもって、病院は診療所では対応の難しい患者の診療に専念すべきである』という考え方についてどう思いますか」については、「賛成」42.1%、「反対」21.8%、「どちらともいえない」36.1%となっており、賛成が反対の2倍になっていますが、コンセンサスには至っていません。
 一方、設問7「政府や自治体は、私的病院があるところには国立病院や公立病院は要らないということで、公的病院を縮小・廃止する政策をとっていますが、これに対して」には「反対」74.2%、「賛成」4.1%、「わからない」21.7%。設問8「患者が大病院に集中するのを避けるため、政府は大病院の外来患者には差額徴収をすることにしましたが、これについてどう思いますか」には「反対」65.2%、「やむをえない」16.1%、「賛成」3.6%、「わからない」15.1%。設問9「医療にも規制緩和をするということで、株式会社が病院経営できるようにする動きがありますが、これに対して」には「反対」54.0%、「賛成」11.3%、「わからない」34.7%となっています。公的医療機関の削減や営利化の下での負担増には、国民の批判が大きいと言えます。
 設問3「あなたはどんな理由で医療機関を選びますか」(3つまで選択)では、「自宅または職場から近い」72.6%、「専門的治療が受けられる」56.6%、「保健・医療・介護・福祉の連携がある」40.6%などでした。設問10「あなたの地域で自治体に力を入れてほしいものは何ですか」(4つまで選択)では、「夜間・休日診療や救急医療体制の整備」71.5%、「高齢者などの専門病院・施設などの整備」62.1%、「地域の診療所と大病院との連携」39.1%、「地域の中心となる病院の整備」34.1%、「高齢者・障害者のためのリハビリ体制の整備」27.0%などでした。
 設問5「あなたの地域ではお年寄りが安心して入院できる病院や介護施設が整備されていると思いますか」では、病院は「整備されていると思う」43.2%、「整備されていないと思う」32.6%、「わからない」24.1%に対して、介護施設は「整備されていると思う」20.7%、「整備されていないと思う」41.5%、「わからない」37.8%となっています。
 また、設問6「最近話題になっている保健・医療に関して関心の高いものは何ですか」(4つまで選択)では、「医療費の負担増」62.9%、「老人の医療・介護問題」58.9%、「医療事故」56.9%などとなっています。
 ここに現れている傾向は、医療費負担の重さや老人、救急等の貧困な体制、医療ネットワークの重要性など、実態調査とも一致する特徴となっています。こうした患者・国民要求を基礎にして、医療提供体制を考えていくことが大切です。

2、深刻化する国民の医療実態
(1)負担増と不況の下、経済的理由から医療機関にかかれない
 保険料や窓口負担、利用料など、患者・国民の負担が次々と拡大されてきました。不況が事態をいっそう深刻化させており、経済的理由によって、医療や介護が受けられない人々が急速に増えています。
 調査した各地で、受診を中断したとか、受診回数や薬を減らしたなどの話が出されました。「慢性疾患の患者さんが受診を減らし、重篤になって担ぎ込まれている」とか、「給料日の25日しか、患者は来ない。あとは『かんこ鳥』が鳴いている」「介護を受けられるのは、一定の収入があって保険料と利用料を払える人だけ」という状況です。
 しかも、受診中断・抑制の話が大きな話題にならないほど不況は深刻です。失業やヤミ金融など多重債務の広がりの下で、「1日1日を生きていくことが先決で、病気のことなど意識にのぼらない。本当にひどくなって慌てて医療機関に駆け込む」などという話が出されました。
(2)国民皆保険制度の空洞化が進行している
 国保412万世帯だけでなく、健康保険料の滞納が広がっています。中小企業が事業主負担を払えず、国保に切り替えられたとか、保険証を取り上げられたなどという事態が起きています。「政管健保を外れた事実を知りながら、これ以上の国保滞納者の増大を恐れ、行政が見て見ぬふりをしている」という話もありました。また、資格証の発行が増えており、医療を受けられない事態が進行しています。無保険者が生み出されているだけでなく、「(高すぎる保険料と窓口負担から)もうやめた」と、自らの意志で保険を抜ける人々も生まれています。
 国民皆保険制度の空洞化が進行していると言わざるを得ない事態です。「皆保険制度というが、国家や社会、未来への信頼があってはじめて成り立つのではないか。長い年月をかけて築き上げてきたものであり、一度崩れたら取り返しがつかない」という指摘もありました。
(3)入院日数の強引な短縮、行き場のない患者の増大
 診療報酬を使った誘導の下で、入院日数の短縮が急速にすすみ、行き場のない患者が増大しています。「老健施設もなく、呼吸器をつけたまま在宅に。日中独居で、ターミナル看護は酸素管理、食事介助、オムツ交換を含め、介護保険では限度を超え、60万円の自己負担。あらゆるボランティアを動員し、20万円に抑え、1日3回の訪問看護を受けた」など、深刻な事態です。「医療の必要度の高い患者は出すべきではないし、家族構成など家庭状況も少しは考えてほしい」「入院する前から、『次の病院を探して』と言われた」など、医療機関に対して厳しい意見も多く出されました。また、6ヶ月以上の入院の15%特定療養費化や入院期間の通算(診療報酬が減額され、病院運営に支障を来たす)について、いっそう深刻な事態になると、強い批判と不安の声が出されました。
 介護・福祉施設は質量ともに不足しており、懇談した施設はどこも、数百人から2千人の待機者を抱えていました。「痴呆は、介護度は低いが片時も眼を離せず、手をとられるため、基本的に受け入れていない」など、特に軽度の痴呆老人や合併症を抱えた人の施設が大幅に不足しています。こうした下で、地域住民がボランティアで自宅を訪問しているとか、中には、「痴呆の母親をフトンに簀巻きにして仕事に出ている」という深刻な話もありました。
(4)悲惨な在宅の実態
 在宅への移行が推進され、医療を必要とする患者が在宅で治療を継続しています。しかし、貧困な施策の下で、家族やホームヘルパーなどに多大な負担がかかっているのが実態です。介護保険の枠では対応できず、家族が仕事を辞めて付き添っているとか、ホームヘルパーが朝・晩自主的に訪問しているなどの話が出されました。多くの場合に、「キーパーソンとなっている人が(介護疲れで)倒れれば、家庭が崩壊しかねない不安定な状態で、かろうじて支えられている」という実態です。
 「訪問回数の問題やショートステイの充実、急変時の医療機関との連携など、在宅を支える施策をもっと充実させる必要がある」「高齢化が進行し、独居老人や老々世帯も増加している。特養やグループホーム、ケアハウスなどをもっと充実させないと無理」などの意見が出されました。行政の担当者からは、介護内容の充実と保険料との間での苦悩も語られました。
(5)保健活動など、住民参加の先進的な教訓
 地道な保健衛生、健康づくりの活動など、各地で先進的なとりくみもすすめられています。特に、長野県南佐久地域では、長年の保健予防活動の下で、多くの住民が主体となって支えあい、楽しく生き生きと活動していました。長野の医療費が低い要因については、高齢までみんながよく働いているとか、食文化などの話とともに、「検診や保健予防活動をすすめてきたことが大きく寄与している」と、病院や行政から確信を持って語られました。 
 他の地域でも、住民組織や病院友の会の役員が、困難な家庭を訪問するなど、支えあっている現状が明らかになりました。また、施設を超えて、地域での「ケア検討会」など、地域を軸に、医療・介護従事者の連携や協力も生まれてきています。
 一方で、介護保険制度を契機に行政の役割がいっそう後退し、地域の実態が把握できない状況が生まれています。保健師からは「保健が福祉に吸収された。出てきた個別事例への対応に追われ、地域を見る余裕はない」などという声が出され、住民組織からも「援助は本当に大変だが、体の続く限りはと、家を訪ねている。まだ、私たちのつかめる範囲はいいが、誰にも助けてもらえず、もっと大変な状況に置かれた人たちがいる」などの話が出されました。


3、身近な医療機関がなくなり、医療内容が低下する危険
(1)先行き不安を募らせる医療機関
 政府の徹底した医療費抑制策、診療報酬も利用した機能分化の押しつけの下で、各医療機関は生き残りに必死になっています。実態調査の中でも、都市部の大規模基幹病院などごく一部を除いて、先行きへの不安感が浮き彫りになりました。
 各医療機関で、患者減の影響が語られるとともに、「これ以上、何をしろというのか」「地域要望もあり、老人や長期患者を切るわけにはいかない。(240床あるが、)急性期で残せるのは50床程度」など、怒りと諦めにも近い声が出されました。
 このままでは、身近にかかれる医療機関、地域に必要な医療機関が大幅に減少しかねない事態と言わざるを得ません。
(2)機能分化の強制に大きな批判
 「機能分化しろと言われても、地域に一つの病院で、やりようがない」「今年の診療報酬改定などを見ても、国はいったい何を考えているのか。手術料の減算など、説明のつかないことが多い」など、医療機関からは、国の政策、診療報酬も使った機能分化の押しつけへの批判が強く出されました。
 患者アンケートでは、「病・診の機能分化」には賛成42.1%、反対21.5%、どちらともいえない36.1%でしたが、「公的病院の縮小・廃止」には賛成4.1%、反対74.2%、「機能分化のための大病院の外来差額徴収」には賛成3.6%、反対65.2%となっています。患者・住民との懇談でも、入院日数による患者追い出しに厳しい批判の声が上がりました。患者アンケートでは、「医療機関を選ぶ理由」は、「自宅または職場から近い」72.6%、「専門的治療が受けられる」56.6%、「保健・医療・福祉・介護の連携がある」40.6%となっており、機能分化の画一的押しつけではなく、住民要求に基づいて地域ごとに柔軟な体制をつくることが求められています。
(3)医療の営利化を危惧する声
 混合診療の導入や医療経営への企業参入については、「株式会社には医療や福祉の経営は無理。採算だけを考えていてはできない。何とかやりくりしているのが実態で、儲からない患者は取らないとか、(赤字の施設・部門から)すぐに撤退するでは、成り立たない」などの指摘が、医療機関や福祉施設から出されました。また、患者や地域からは「今でもどんどん負担があがっているのに、儲け本意でやられては到底かかれない」「都市部はいいかもしれないが、田舎では業者も来ない」など、不安の声が出されました。
 患者アンケートでも、「株式会社の病院経営」については、賛成は11.3%に止まり、反対54.0%、わからない34.7%となっています。
(4)展望は患者・住民要求に依拠すること
 一方で、地域住民に依拠して展望を切り開こうという動きも広がっています。地域の医療要求を把握し、それに対応した医療機関への改革をすすめようというものです。
 「農民(住民)とともに」とか、「自己完結型から地域完結型への転換」が、多くの経営者から語られましたが、医療・福祉のネットワークづくりがすすんでいます。ある医療機関では「在宅の急性期」という打ち出しで、大病院を退院した医療の必要な患者の在宅を受け持ち、その急変を病院で対応しようという試みもみられました。
 在宅や地域で活動する職員からは、「病院は、質、質といっているが、自己満足になっている面があるのではないか。質を判断するのは患者」とか、「この患者が退院したらどうなっていくのかなども考えて、看護をしてほしい」などの意見も出されていました。もう一度、住民とともに疾病の克服をめざすという原点に立ち返ることが求められています。
(5)過密労働に拍車、医療内容の低下も
 各医療機関では、生き残りのために、徹底した「合理化」と人件費の抑制がすすめられています。こうした下で、超過密労働で疲れ果て、健康破壊やバーンアウトが後を絶たない状況など、職員からは悲惨な実態が出されました。このままでは、医療内容の低下を招きかねない状況です。患者からも「忙しいのはわかるが、最近職員が冷たい。前はもっといろいろと状況も聞いてくれ、アドバイスしてくれた」「質と言われれば、確かに下がったのではないか」などの指摘がされました。
 ある特養経営者からは「賃金水準は本当に低い。若い職員ばかりだからいいが、定額制の今の報酬のままでは、今後は成り立たない」などの話も出されました。一方で、「賃金を切り下げるとか、派遣に切り替えるのは簡単だが、それでは士気が保てず、まともな医療は保障できない」など、職員に依拠する姿勢を示す経営者もありました。
(6)深刻化する医師不足
 多くの医療機関で、医師確保が深刻な問題となっていました。「大学の医局にいくら頼んでも、絶対数が足りず、来てくれない」「総数では何とかなっても、診療科ごとに見れば完全な不足」などの指摘がされました。医師不足から収入が減り、深刻な経営問題となっている病院もありました。「医師は過剰」と言われますが、大都市部を除き、不足に苦しんでおり、専門領域ごとに見れば、完全に不足している実態です。
 佐久病院などでは、診療所など地域の第一線の一般医について、休暇や研修の代替要員の確保などサポート体制をとって燃え尽きない配慮をしながら確保している先進的な教訓もありました。同時に、「専門医の養成は民間では難しい」「国は大学教育から見直して、医師確保ができるようにしてほしい」などの指摘もなされました。

第2章 政府・財界の描く将来像と批判

1、医療提供体制の縮小・再編、営利化が焦点に
(1) 厚生労働省は2001年9月、「医療制度改革試案」を出すとともに、将来ビジョンとして「21世紀の医療提供の姿」を明らかにしました。「21世紀の医療提供の姿」はまず、「我が国の医療は、国民皆保険制度の整備とどの医療機関でも受診が可能なフリーアクセスの仕組みの下で、全般的な生活水準や公衆衛生の向上、医療関係者の努力等も相まって、世界最高の平均寿命・健康寿命を達成し、WHO(世界保健機関)の評価においても、我が国の保健システムは世界最高と評価されている」と指摘しています。しかし、急速な少子高齢化、低迷する経済状況、医療技術の進歩、国民の意識の変化などを挙げ、医療システムの大転換が必要だとしています。
(2) 厚生労働省はそれ以降、2002年8月の「医療提供体制の改革の基本方向―『「医療提供体制の改革に関する検討チーム」中間まとめ―』、2002年12月の「『医療保険制度の体系の在り方』『診療報酬体系の見直し』について(厚生労働省試案)」(新しい高齢者医療制度の創設含む)、「医療保険制度の運営効率化について」(社会保険病院の在り方の見直しなど含む)などを出しました。
 総合規制改革会議は2002年3月に「3ヵ年計画(改定)」をまとめるとともに、12月には「規制改革の推進に関する第2次答申」を出しました。医療などを「官製市場」と決めつけ、経済特区を突破口に、株式会社の参入や混合診療の導入を執拗に推し進めようとしています。
 また、自民党の「医療基本問題調査会医療制度改革推進ワーキンググループ」も2002年11月、公的医療機関のあり方、政管健保のあり方を含めた保険者の統合再編、新しい高齢者医療制度の創設等制度体系見直し、診療報酬体系見直しなど、一連の提言をとりまとめました。
(3) これらに盛られた項目をまとめると、@政管健保を含めた医療保険制度の再編、A新しい高齢者医療制度の創設、B公的医療機関の見直し、C診療報酬体系の再編、D株式会社参入や混合診療導入の執拗な検討などです。
 まさに、医療提供体制全体の抜本的な再編を迫るものとなっています。2003年はその本格的な論議がされようとしており、正念場の年と言えます。国民のいのちと医療を守る大きな運動と共同が求められています。

2、持続可能な制度を名目に、耐えがたい負担の押し付け
(1) 先鞭をつけられてきたのが、「持続可能で安定的な医療保険制度の構築」です。「高齢化の進行の下で、老人医療費の増大が急速にすすんでいる」と危機感があおられてきました。そして、高齢化のピーク時でも保険制度の安定的運営を確保するとして、@保険給付の引き下げ(被用者保険、国民健康保険の給付率の7割での統一、高齢者医療制度の9割定率化・一定所得以上8割など)、A総報酬制の導入など保険料の引き上げ、B高齢者医療制度の改悪(老人医療費の伸び率管理制度の導入、老人保険
 制度の対象年齢の70歳から75歳への引き上げなど)、C診療報酬・薬価基準の見直しなどが打ち出されていました。
 その多くが、国民の大きな反対を押し切って強行された2002年通常国会での健保法等改悪や2002年診療報酬マイナス改定で実施に移されました。
(2) 実態調査の結果からも明らかなように、深刻な不況の影響もあいまって、現在でも患者・国民の医療へのアクセスは、経済的理由から大きな障害にさらされています。患者・国民負担の引き上げは、事態をいっそう深刻にしており、国民に耐え難い負担を強い、国民皆保険制度の空洞化を進行させています。すでに、10月の老人医療費引き上げで入院を固辞した老夫婦が相次いで亡くなるなど、各地で深刻な影響が報告されています。
(3) 医療保険財政悪化の最大の原因は、国庫負担割合の削減と老人医療制度への拠出金の増加です。不況の下での保険料収入の低迷が、拍車をかけています。したがって、国庫負担を増額するとともに、国民の購買力を温めて不況を克服し、保険料収入を増やすことや、健康増進による医療費自然減などによって、国民本位の持続可能な医療保険制度としていくことこそ求められています。

3、効率化の名で、医療提供体制の大幅な縮小を画策
(1) 医療提供体制に関しては、@患者の選択の尊重と情報提供(患者の視点の尊重と自己責任、情報提供のための環境整備)、A質の高い効率的な医療提供体制(質の高い効率的な医療の提供、医療の質の向上)、B国民の安心のための基盤づくり(地域医療の確保、医療の情報化等)が強調されています。
(2) 国民の要求を一定程度反映し、情報提供の促進、安全な医療の推進が打ち出されています。しかし、そこで求められているのは、情報提供に基づいて、国民が「自らの健康保持のための努力を行い、自覚と責任をもって医療に参加」することです。そして、患者の選択をテコに、医療機関の機能分化・効率化が自然にすすむかのように描かれています。具体的には、@急性期病床は手厚い体制によって入院日数の短縮がすすみ、必要な病床数が減っていく、A急性期以外の病床はリハビリや療養の病床となるなど、機能分化がすすむ、B診療所は他の病院との連携の下、住民に最も身近な医療機関として、患者に密接な医療提供の場となるとされています。
 しかし、実際には、診療報酬などによる誘導によって、医療提供体制の縮小が強引にすすめられているのが実態です。さらに急ピッチですすめられようとしている公的医療機関の縮小・統廃合や医療保険制度の再編がすすめられれば、必要な医療機関が大幅に減少しかねない状況となっています。
(3) 実態調査でも明らかなように、現在でも医療機関を追い出され、行き場のない患者があふれています。政府は急性期病床を50〜60万床以下に削減しようとしていますが、手厚い人員体制への改善はなんら具体化されておらず、実際には入院日数による区分で患者が追い出されています。重症の患者が在宅や地域に置かれるなど、必要な医療の提供が阻害されています。療養型にも医療の必要度の高い患者が多く入っており、療養型の低い人員配置基準や報酬基準の下で、十分な医療が提供できていません。
 行き場のない患者をつくらないために、介護・福祉の基盤整備を先行させるとともに、急性期(一般)病床の強引な削減誘導や公的医療機関の統廃合をやめて、地域に必要な病院・病床数が確保されるようにすべきです。
(4) 療養型では逆に、患者の重症度はそのままに、従来の「その他病床」から5対1の低い配置への切り下げとなっており、看護の空白も生まれています。医療現場は、厚生労働大臣も「(入院日数短縮の影響で)忙しすぎる」と認めざるを得ないほどの過密労働であり、安全も脅かされる状況です。慢性疲労や健康破壊が後をたたず、3人に2人の看護職が辞めたいと思っているほどです。1対1看護の実現など、諸外国に比べ極端に少ない人員配置の抜本改善が急務です。

4、医療を財界の新たな金儲けの場に
(1) 総合規制改革会議の「第2次答申」には、病院経営への株式会社参入や混合診療の導入は、具体的には盛り込まれませんでした。厚生労働省を含む関係団体等の強い反対意見があったためです。
 しかし、「第2次答申」は、「民間でおこなえるものは官は行わない」という考えを基本に、医療や福祉、教育、農業の4分野を「官製市場」と決めつけ、「官製市場の民間への全面開放」を今後の筆頭課題にあげています。そして、経済財政諮問会議との連携を強化し、「経済特区」を突破口として、それを推進すると述べています。株式会社参入や混合診療導入など、医療の営利化に向けた宣戦布告ともいうべき内容です。
(2) 口実は、競争原理の導入によって、効率的な医療が実現できるというものです。しかし、企業原理の下では儲け本位の医療とならざるを得ず、国民のいのちと健康を守る医療の変質は避けられません。
 利潤追求を基本とする企業参入の前提としては、公的保険、医療保障を低位に抑え、市場化の部分を拡大すること、混合診療によって企業の利潤確保の道を保障することが避けられません。これでは、経済的理由から医療のアクセスがいっそう阻害されることは明らかです。また、かえって医療費の高騰をまねいたり、不採算部門からの撤退がすすむなどの弊害が生まれかねません。
 経済特区は、企業活動のためにその特区だけ規制を緩和・撤廃するものです。そうすれば、地域によって受けられる医療や医療費に格差が生まれることになり、人のいのちに直接かかわる医療分野に導入すべきものではありません。ましてや、狙いは医療の営利化のための突破口とすることであり、論外の主張といわざるを得ません。
(3) 憲法は、国民が健康で文化的に生きる権利、健康権を保障しています。その下で、医療の非営利原則が貫かれ、国民の運動の中で皆保険制度が確立してきたのです。国民のいのちと健康を保障するためには、非営利原則の堅持がどうしても必要です。
 そもそも、総合規制改革会議はその名のとおり、企業活動・経済活性化のために、規制を撤廃・縮小するための会議です。そこで優先されるのは、人のいのちや健康ではなく、企業参入、医療の市場化です。こうした場で、医療や福祉、教育などを論議していることが問題であり、即刻やめるべきです。

第3章 私たちのめざす医療提供体制

1、医療・福祉改善の基本方向
 患者・国民と医療機関の現状を見たとき、政府のすすめる「医療抜本改革」の方向では、国民が求める安全でゆきとどいた医療とはほど遠い姿となることは明らかです。
 私たちは、医療提供体制を国民の立場に立って構築していくために、憲法の基本的人権、健康権を保障する観点から、次の基本原則にたつことが重要だと考えます。
(1)必要な医療の確保と公的責任の明確化
 憲法は、健康で文化的に生きる権利、国民の健康権を保障しています。
 経済的理由で医療を受けられないとか、入れる施設がないなどという実態を一掃し、国民だれもが全国等しく、いつでも必要な医療が受けられるようすることが必要です。
 国民のいのちと健康に対する公的責任を明確にし、医療提供体制の整備をすすめることが必要です。その意味からも、医療の営利化・市場化は絶対に認められません。
(2)安全でゆきとどいた医療の実現
 医療事故をなくし、安全でゆきとどいた医療を実現していくことが必要です。
 医療安全対策を抜本的に強化するとともに、医療内容を不断に向上させていく必要があります。そのためにも、医師のパターナリズムを排し、真に民主的な職場、患者本意のチーム医療をつくりあげるともに、超過密労働を改善し、手厚い体制を確立することが不可欠の課題です。
(3)患者・住民参加による保健・医療体制の構築
 医療の主体は患者・国民です。患者・住民の参加によって、その要求に沿った保健衛生、医療提供体制を構築していく必要があります。
 民主的なチーム医療の確立に止まらず、医療への患者・住民の参加が大切です。そのためにも、情報公開やインフォームド・コンセントを推進することが求められています。

2、医療提供体制整備の具体的課題
(1)必要な医療の確保と公的責任の明確化
@国庫負担の増額を基本に、医療へのフリーアクセスを保障する
 患者・国民負担を引き下げ、経済的理由から医療にかかれない事態をなくすことが必要です。
 保険料の軽減をはかるとともに、低所得者への保険料減免制度を拡充し、保険証取り上げや無保険者という事態を解消すべきです。保険料は所得に見合ったものとし、高額所得者については適正な引き上げを実行すべきです。
 保険制度でありながら、窓口負担の基本が3割になろうとしている異常な状況を抜本的に見直し、窓口負担・利用料ゼロに向けた引き下げが必要です。当面、2002年健保法等改悪の撤回を求めるとともに、窓口での減免制度や受領委任を拡充して、医療へのアクセスを保障すべきです。
 財源については、国庫負担の増額を基本とすべきです。不必要な大型公共事業の削減、軍事費の削減、大企業や高額所得者への税率引き上げなどで、社会保障重視の国家財政への切り替えをはかる必要があります。逆進性で、不況をさらに加速させる消費税の増税はおこなうべきではありません。
A入院日数による病院追い出しを止め、必要な一般病床を確保する
 入院日数による機械的な機能分化をやめさせます。行き場のない患者をつくらず、患者が安心して治療に専念できるようにする必要があります。
 2003年8月までに一般病床と療養病床の選択が迫られています。厚生労働省は、急性期病床を50〜60万床以下に削減しようとしています。しかし、現在の療養型には、医療の必要度の高い患者が多数入院しており、急変という事態も増えています。一般病床には急性期とともに亜急性期をきちんと含め、医療の必要性から判断した適切な病床数を確保することが必要です。地域医療計画は、必要な医療の確保・整備を目的としたものであるという観点から、病床規制は現在の上限規制から下限規制に改めるべきです。
B在宅・介護の基盤整備
 20万人とも言われる特養待機者、グループホームなど多様なニーズに合わせた形態など、介護・福祉の基盤整備は大きく立ち遅れています。行き場のない患者をつくらないためにも、介護・福祉の基盤整備の目標を引き上げ、それを早急に実現する必要があります。
 また、医療の必要度の高い患者が在宅に追いやられないようにするとともに、在宅の手厚い医療・介護のサービスを提供できるようにすべきです。
C救急医療体制の整備
 国民的な課題となっている小児・精神など、夜間休日、救急医療体制の抜本的な整備をすすめることが必要です。公的病院や大規模病院に積極的な役割発揮を求めるとともに、行政が責任を持って地域の医師・医療機関の協力体制をつくり、輪番制や共同利用型施設などを整備していくべきです。
 核家族化の進行などの下で、夜間・休日の電話相談体制をつくり、救急医療体制との連動した有機的な制度を構築していくことが大切です。
D初期医療とプライマリケアの充実
 初期医療とプライマリケアの充実をはかる必要があります。学会や大病院との協力の下に、診療所や中小病院の医師の教育・研修をすすめ、医療内容の向上をはかるとともに、国民が安心してかかれる医療体制をつくることが大切です。かかりつけ医制度を浸透させ、国民の健康増進をはかるべきです。
E公的医療機関の積極的な活用
 公的医療機関の統廃合・移譲を止め、その役割の積極的な発揮の方向に転換することが必要です。政策医療や不採算医療を担うとともに、規範的医療を推進する中核として整備拡充すべきです。民間医療機関や福祉施設とのネットワーク、自治体等との連携を強化し、住民要求に応える医療を積極的に担う必要があります。また、教育機能を充実させるとともに、低所得者の医療を積極的におこなうべきです。
F過疎地域への特別対策の具体化
 過疎地域は、高い高齢化率や脆弱な自治体財政、医療機関や医師の不足など、いっそう困難な状況に置かれています。過疎地域への対策を特別に位置づけることが必要です。
 国の補助金を増やし、保険料の高騰を抑えつつ、基盤整備をすすめることが大切です。医療機関の不足地域には、公立医療機関を設置するとともに、県立病院や大学などからの医師の派遣体制を確立していくべきです。
G営利主義を認めず、社会保障としての医療を発展させる
 我が国の医療制度は、生存権や健康権を求める運動の中で築き上げられてきたものです。医療制度を社会保障から、金儲けの場に変質させる営利化・市場化は認められません。現在執拗に狙われている株式会社の経営参入や混合診療、経済特区などの導入の策動はきっぱりと止めるべきです。
(2)安全でゆきとどいた医療の実現
@第三者機関の設置など医療安全対策の強化
 国民に安全でゆきとどいた医療を提供するために、医療安全対策を抜本的に強化することが必要です。個人責任から、組織的な安全対策への本格的な転換をはかるべきです。
 その中核として、行政や医療機関から独立した第三者機関として、「医療安全対策委員会(仮称)」を設置することが大切です。この機関は、調査権を有し事故事例を分析するとともに、医療機関やメーカー、行政への改善勧告の権限を有するものとすべきです。また、被害者・家族、医療機関の相談窓口、情報提供をおこなうことも必要です。
A民主的な職場づくりとチーム医療の確立
 医療事故をなくし、医療内容の向上をはかるためにも、自由にものが言える民主的な職場をつくることが必要です。医師への絶対的な権限の集中やパターナリズムを廃し、各職種が権限を持って医療に参加できるようにすべきです。
 患者の参加も含めたチーム医療の確立によって、医療の向上をはかることが大切です。
B教育研修の保障など、医療内容の向上
 専門職にふさわしい、教育・研修制度の充実をはかり、医療内容を向上させていくことも必要です。学会や大学との協力によって、最新の医療内容の普及をすすめていくべきです。公的な生活保障を実現し、臨床研修などの充実をはかるべきです。
C医師不足の解消
 深刻な課題となっている医師不足を解消するとともに、勤務医の劣悪な労働条件を改善する必要があります。
 地域の第一線の一般医・総合医の確保に国が責任を持ち、教育・養成制度から見直すべきです。特に、僻地など医師の絶対的不足地域への医師の派遣制度を、国や自治体の責任でつくる必要があります。また、地域の第一線医のバーンアウトを食い止め、必要な継続教育・キャリアアップを図るため、公的医療機関などの中に支援体制を確立していくべきです。
D看護職など必要なマンパワーの確保と労働条件の改善
 超過密労働の下で、看護職などの健康破壊、離職が後を絶たず、安全な医療にも深刻な影響を与えています。看護職員など医療労働者の配置基準の抜本的な改善をはかることが急務です。
 看護職員については、入院は2対1以上、外来は15対1以上、手術台1台に3人以上の配置を実現すべきです。夜勤体制は患者10人に1人、回数は月6日以内など、働き続けられる労働条件に改善することが大切です。
 また、患者のいのちを預かる医療の直営原則を堅持するとともに、労基法の遵守など働くルールを確立し、働き続けられる職場とすることが必要です。
E原価主義を原則とし、安全のコストを盛り込んだ診療報酬への改善
 診療報酬は、提供された医療への経済的対価であることを明確にし、原価主義に基づいた適正な報酬に改めるべきです。人員に関する点数を明確にし、医療労働者の適正な人員配置を保障するとともに、その専門性と仕事内容に見合った適切な点数設定にする必要があります。同時に、減算措置をあらため、安全のコストを盛り込むことが大切です。
 また、理屈の通らない人件費や諸経費の技術料への包含や薬価差で成り立つ構造を転換し、医薬品、医療機器などの原価に基づいた報酬に一定の付加価値をつけ、透明性の保たれる点数設定とすべきです。
 介護報酬についても、ケアマネージャやホームヘルパーの適正な人件費を保障できる点数に改めることが必要です。
(3)患者・住民参加による保健・医療体制の構築
@住民参加による医療・福祉計画づくりとネットワークの構築
 医療の主体は患者、国民です。住民参加によって、保健・医療・介護・福祉の総合的な計画をつくり、地域事情にあわせた医療提供体制、ネットワークを構築していくことが必要です。
 そのため、医療審議会の委員等について、公募枠を設けるとともに、住民アンケート、医療懇談会等をおこなうべきです。
A情報公開と医療への患者の参加
 医療情報を積極的に公開し、住民が主体的に医療に参加できるようにすることが必要です。
 行政が各医療機関の診療内容や体制等の情報を把握し、住民に公開するようにすべきです。そして、患者・住民が主体的に医療機関を選び、また、いろいろな要望が出せるようにしていくことが大切です。
 インフォームド・コンセントを徹底するとともに、患者がチーム医療の一員として、自らの判断で主体的に医療に参加できるようにすることが大切です。公的な医療相談窓口の整備とともに、セカンドオピニオンを制度として確立すべきです。
B公的保健活動の抜本的強化
 早期発見・早期治療は医療費抑制にも大きな効果があります。住民参加によって、保健予防、健康づくりの活動を抜本的に強化していく必要があります。
 そのため、自治体の保健活動を再構築し、住民実態の把握や検診、健康相談活動を抜本的に強化していくべきです。住民が主体的に関われるようにするためにも、健康大学など、住民への啓蒙活動を強化し、地域医療、健康づくりの人材育成をすすめていく必要があります。

おわりに

 困難な医療情勢の中でも、「住民とともに」という観点を徹底することが、医療機関の将来展望を切り開くカギになっていることが、実態調査の結果からも明らかになりました。この立場を医療労働組合の活動や職員の意識に浸透させる粘り強い活動が、本格的に求められています。そして、患者・住民との共同をひろげること、医療・福祉関係団体との協力をすすめることが重要になっています。国民のいのちと健康を守ることを、国や自治体の中心課題に位置づけさせる政策転換を実現させるため、広範な国民とともに活動を強化していくことが必要です。
 また、医療は国民の権利であり、公的な責任が大切であることも再認識させられました。現在の財源問題に傾斜した国の施策や経営最優先の姿勢では、地域の患者・住民の厳しい実態の打開はなんら図ることはできません。今こそ、憲法原則を基礎にすえたとりくみが求められています。
 本提言が、今後の運動や職場・国民討議の中で生かされていくことを願うものです。
以上