動きだした2年課程通信制

省令改正で来春開始が確定
放送大学の科目も明らかに


 厚生労働省は3月末、就業経験の長い准看護師から看護師への教育の拡大を図るため、2年課程通信制を創設するなどとした省令改正を行ないました。非常に不十分な内容ですが、来春スタートが確定しました。準備作業が始まっており、放送大学の対応科目なども明らかになってきています。

ようやく改正
 年度末ぎりぎりの3月26日、看護師学校養成所指定規則の改正が公布されました。
 改正の第1は、就業経験10年以上の准看護師を対象に、看護師資格を得るための教育の拡大を目的として、新たな2年課程通信制を創設するということです。
 方法は異なりますが、就業経験の長い准看護師に対する道の拡大(特別措置)という点では、移行教育検討会の結論と同じです。

履修単位の免除
 改正の第2は、放送大学等で履修した科目については、養成所の判断で、その科目の履修を免除できるということです。ただし、総単位数の2分1以内となっています。
 つまり、放送大学等で単位を修得していれば、それを養成所の単位に振り替えることができるのです。
 なお、この振り替えは、2年課程通信制だけでなく、他の課程でも同様にできることになりました。

厳しい内容に
 しかし、決定された2年課程通信制の具体的な内容は、就業経験や生活実態を十分に考慮したものとは言えず、就労准看護師に過重な負担を強いる、かなり厳しいものとなっています。
 昨年12月初めに概要案が明らかになって以降、日本医労連は抜本見直しを求める声明を出し、全国の仲間と協力して、内容の改善を求めてきました。パブリックコメントには、302通もの意見が寄せられましたが、厚生労働省は、一部手直しで強行したのです。

レポート数は緩和
 最大の争点であった「1単位1レポート」については、「1単位ごとにレポート提出又は単位認定試験を行うことを標準」とすると、若干の緩和が図られました。養成所が実施する段階で、過重な負担とならない配慮が求められています。

臨地実習はなし
 従来の臨地実習はなくなり、代わりに紙上事例演習(看護計画のレポート)と病院見学実習(見学)、面接授業となりました。
 病院見学実習と面接授業以外は、すべて通信学習で行われます。

準備を早急に
 この省令改正で、来春開始が確定しました。対応する放送大学の科目なども明らかになってきました。
 相当数の准看護師が受講を希望しており、養成所の確保や支援措置の確立など、希望者全員の受講を保障する体制づくりが求められています。
 また、本来的課題である看護制度一本化、准看護師養成停止もとめる運動のいっそうの強化が必要です。

2年課程通信制の概要

指定規則改正の趣旨
 通信制の2年課程を創設し、准看護師が看護師の資格を得るための教育の拡大を図るなどの改正を行なうものである。
1、入学(入所)資格
 免許を得た後10年以上業務に従事している准看護師
2、修業年限
 2年以上
3、教育内容
 現行の2年課程と同等のものとする
4、教育方法
(1)授業の実施形態
 2年課程(通信制)を設置する養成所が、通信学習については、印刷教材、放送等による授業を行なった上で、添削指導を行う。また、臨地実習については、紙上事例演習、病院見学実習及び面接授業により行なうものとする。
(2)単位の認定方法
 1単位ごとにレポート提出又は単位認定試験を行う。なお、総単位数の2分の1を超えない範囲で、放送大学、他の専修学校等での履修科目の免除を行うことができる。(実際には、かなりの単位を放送大学で修得することになる)
5、必要人員
 専任教員は、他の2年課程と同様に7人以上、レポートの添削指導員は10人以上(非常勤で可)、事務職員は通信制に付随する事務処理に必要な数など。
6、臨地実習
(1)教育内容
 紙上事例演習(ペーパー・ペイシェント)、病院見学実習及び面接授業を内容とする。面接授業においては、同時に授業を行う学生又は生徒は40人以下とする。(教育の質が確保できれば40人以上も可。面接授業は病院など養成所以外の場所でも実施できる)
(2)実習施設
 学生が勤務している施設以外で、既に他の看護師養成所(2年課程通信制を除く)の実習施設として承認を受けている施設を実習施設として選定する。実習施設は原則として、2年課程(通信制)を設置する養成所の都道府県内で、各専門分野について少なくとも1施設を確保する。(近くに実習指定病院がない場合など、勤務病院でも違う職場で認められる場合がある)
7、施設・設備
 ……既存の課程に併設する場合は兼用することができる……
8、その他
 1996年の看護師等養成所の運営に関する指導要領の改正で導入した2年課程(通信制)は、廃止する (今回の2年課程通信制は、修業経験の長い准看護師を対象とした新たな制度)

2年課程通信制の内容と留意点

就業経験10年以上
 准看護師としての就業経験が10年なければ、入学できません。
 ただし、放送大学等で、あらかじめ単位をとっておくことは可能です。

養成所が基本
 99年の移行教育検討会の結論は、放送大学(理論学習)と移行教育所(技術学習)の、事実上の2本建てでした。
 今回の場合には、2年課程通信制を行う養成所が基本となります。養成所に入学し、62単位そろえれば、卒業でき、国家試験が受験できます。
 ただし、放送大学等で修得した単位について、総単位数の2分の1以内なら、養成所の単位に振り替えることができます。どの科目を単位として認定するかは、各養成所が決めます。

紙上事例演習とは
 臨地実習は、紙上事例演習と病院見学実習、面接授業に代えられました。
 紙上事例演習とは、「文章で示された架空の患者について、看護展開のレポートを作成する」ものです。通信学習で行なわれます。
 レポート数は、7つの専門分野ごとに、3事例程度(計21事例程度)となっています。
 「程度」であり、具体的な数は各養成所が決めることになります。過重な負担とならないようにさせる必要があります。

病院見学実習とは
 「病院の看護提供のあり方の実際を見学すること」です。専門分野ごとに、2日(計14日)となっています。
 病院に見に行くだけでよく、従来の臨地実習とは、全く違います。
 見学の場所は、すでに実習指定病院になっている施設から選ぶことになります。通信制であることから、学生の希望にそって時期や場所に配慮するよう定められています。自分でどの病院でやるか、決めることも可能です。ただし、養成所の承認は必要です。
 勤務している病院では、原則として行えませんが、近くに実習指定病院がないなどの場合は、違う病棟・職場で、認められる場合もあります。

面接授業とは
 「通学し、専任教員と対面し直接指導を受けて、学んだ知識と実践能力の統合を図るもの」です。
 一般的な授業と考えて、差し支えはありません。日数は、専門分野ごとに、3日(計21日)です。
 通学となっていますが、
 学生の便宜性をはかることになっており、教室や必要な機械器具を確保できる場合には、養成所以外の場所でもできます。
 病院の会議室や公共施設等でもよく、勤務との両立をはかる上でも、時期や場所の便宜をきちんとさせることが必要です。

通信学習の後に
 なお、この臨地実習部分は、各分野の通信学習を終えてから行われます。
 また、最初に基礎看護学を実施しなければなりません。

あとは通信学習
 病院見学実習と面接授業以外は、すべて通信学習で行われます。
 養成所から印刷教材が送られてきて、自己学習ですすめることになります。途中で添削指導(レポート提出)があります。
 最大の問題となっていた「1単位1レポート」は標準になりました。勤務と両立できるように、各養成所に無理のない設定にさせる必要があります。

放送大学も活用
 実際には、放送大学でかなりの単位をとることになります。
 放送大学は、移行教育検討会の決定を受けて、準備作業をすすめていました。そのため、新規につくられた10科目については、厚労省も放送大学での修得を基本に考えています。
 放送大学には、他にも、単位とすることが可能な科目が100科目以上あります。経費の上からも、養成所はかなりの部分を放送大学でとることにすると見られています。

国家試験の工夫
 養成所を卒業すると、看護師国家試験を受験することができます。
 国家試験の問題は、国家試験委員会で検討されています。試験問題の選択性など、就業経験の長い准看護師の特徴に配慮した工夫が必要です。

放送大学のシステムと活用法

通信制の大学
 放送大学は、通信教育で授業を行っています。衛星放送を使って、テレビやラジオで、授業を視聴します。首都圏では、地上放送でも行われています。

入学試験はない
 入学試験はありません。
 申し込んで学費を納入すれば、15歳以上の人は、誰でも学生になれます。
 ただし、「全科履修生」は、18歳以上の高卒者となっています。
 第1学期が4月から7月、第2学期が10月から1月となります。

年2回の入学機会
 入学は、4月だけでなく、10月にもできます。
 全科履修生は、4年以上在学し、卒業をめざす者です。ただし、今回の場合は、放送大学でかなりの単位をとることになるので、高卒の人は、全科履修生として登録する方が有利だと思われます。
 選科履修生は1年間、科目履修生は半年間の在学となります。夏季集中科目のみをとる入学制度もありますが、第1学期に学生であれば、夏季集中科目も履修できます。

具体的な学習方法
 履修する科目を登録すると、印刷教材が送られてきます。自分で都合のよい時間に勉強します。
 各科目の放送は週1回、1回45分で、15回です。中間で添削指導(レポート提出)があります。
 夏季集中科目は、4週間程度にまとめて行われる予定です。
 放送を録画・録音して、都合のよい時間に勉強することは可能です。また、放送のビデオや教科書は、市販もされています。

単位認定試験
 単位認定試験は、第1学期は7月下旬、第2学期は1月下旬に実施されます。レポートを出していないと、試験を受けられません。
 もし、不合格だった場合には、半年後の試験を再試験として受験できます。あらためて、授業料を払う必要はありません。再度不合格の場合には、科目登録が必要になります。

10科目は放送大学
 すでに多くの人が受講している「人体の構造と機能」「疾病の成り立ちと回復促進」に加え、すでに放送中の「看護学概説」も単位となることが明らかになりました。専門分野に対応する残りの7科目も、来年から順次開講されます。
 この10科目については、厚労省も放送大学での履修を基本に考えています。
 なお、放送大学は、1科目2単位ですので、10科目で20単位となります。

他にも多くの科目
 放送大学には、他にも単位とすることが可能な科目が、100科目以上あります。
 厚労省も放送大学の活用を推奨しています。実際には、放送大学で半数近い科目をとることになると見られています。
 どの科目を単位とするかは、各養成所が決めます。養成所の準備状況も見ながら、10科目以外の科目の履修も、すすめていく必要があります。

希望者全員の受講保障を 制度一本化へ運動強化
グループつくってみんなで学習


多くの受講希望
 決定された2年課程通信制の内容は、就労准看護師の実態にそぐわず、過重な負担を強いるものです。
 99年の移行教育検討会の決定や、日本看護協会の弾力的運用案と比べても、かなり厳しい内容です。
 受講を諦める人も出ていますが、「やっと道が開けた」と、かなりの准看護師が受講を希望しています。
 充実した支援措置を確立させ、希望者全員の受講を保障する体制をつくらせる必要があります。

養成所の開設を
 特に、2年課程通信制を行う養成所の開設が緊急課題です。
 開設に向けて動き出した養成所はまだ少数です。来年4月開設を決めたのは、ごく一部に止まっています。このままでは、受講できない人が大量に生まれてしまいます。
 国の責任を明確化させ、一定期間で希望者全員が受講できる数の養成所を設置させる必要があります。
 通信制であり、面接授業は病院など、養成所以外の場所でも実施できます。各県1校を基本に、国・自治体に早急に開設するよう働きかけを強めましょう。
 日本医労連は、准看護師や関係者への情報提供を強めるとともに、「准看護師アンケート」を実施するなど、准看護師の要望を把握し、内容の改善や支援措置の確立を求めていきます。

支援措置の確立を
 看護のレベルアップのためにも、国や経営者が充実した支援措置を確立して、受講を保障し、看護師への移行を推進することが必要です。
 国や自治体に、学費補助制度や勤務軽減措置など、充実した支援措置を求めていきます。また、准看護師への情報提供の徹底とともに、准看護師の受講希望や要望をきちんと把握させるようにします。

教育内容の改善を
 決定された2年課程通信制の内容に対して、准看護師の声や実態を示し、少しでも改善させることが必要です。
 また、レポートの数や面接授業の実施場所、放送大学の活用など、具体的な運用は、養成所が決めていくことになります。
 開設を予定している養成所などに、准看護師の要望を伝えるなどして、便宜をはかることも必要です。

経営者の支援も
 経営者が、支援策を具体化し、受講を保障していくことも大切です。
 経営者に、希望するすべての准看護師の受講を支援する支援措置の具体化を急ぐように求めていきます。
 学費等の補助(研修としての位置づけ)、勤務表の融通・勤務軽減、学習グループの形成と支援担当者の配置、定期的な学習会の開催、養成所への集団入学と面接授業の院内誘致、病院見学実習場所選定の援助など、要望や課題を出し合い、具体化していくことが必要です。

職場から支援の輪
 この課題は、看護のレベルアップや、看護職員の社会的地位向上にとっても重要です。准看護師だけでなく、看護職や職場全体の課題です。看護職全員で放送大学を学習している職場もあります。みんなの課題として、職場から雰囲気をつくり、支援の輪をつくりあげていきます。

放送大学の受講を
 まず、放送大学の受講を積極的にすすめていくことが必要です。
 原則放送大学となるはずの10科目を中心に、受講をすすめ、早めに単位をそろえていくことが大切です。
 できるだけ、職場や地域でグループをつくり、集団入学するようにします。
 入学料が安くなりますし、学習センターと協力して、ビデオ貸与などの便宜を受けることもできます。

グループ学習で
 忙しい職場実態の中で、一人ではなかなか続きません。放送大学の受講状況をみても、一人では途中であきらめて、単位認定試験までいけない例がかなり見られます。
 集団入学に止まらず、学習グループをつくって、定期的な勉強会や、レポート対策会などを開催し、励ましあって、一緒に勉強を進めることが大切です。
 教員資格を持った看護師や医師がチューターになって、学習会をやっている施設もすでにあります。

制度一本化の声を
看護制度の医労連基本要求

1.准看護師制度を廃止すること
 (准看護師養成・資格の廃止)
2.すべての准看護師を看護師に切り替えること
 (看護師資格への切り替え)
3.看護職の基礎教育は、高校卒業後3年以上の学校教育法第1条に基づく教育制度で行うこと
 (基礎教育のレベルアップ)
4.看護職の生涯教育制度を確立すること
 (看護現場のレベルアップ)
 改善をはかりすすめたにしても、この2年課程通信制で、制度問題の根本解決がはかられるわけでないことは明らかです。
 特に、今回の教育内容がかなり厳しいものとなった中で、受講を断念する人も生まれており、看護制度一本化・准看護師養成の停止という、本来の課題の実現の必要性が、いっそう鮮明になっています。
 96年の「准看護婦問題調査検討会報告書」は、21世紀初頭の早い段階での、養成制度の統合(准看護師養成の停止)を提言しました。
 医師会等の抵抗で、この提言が実現されていないことが、大問題なのです。早期実現を勝ち取ることが求められています。安全でゆきとどいた看護を願う国民の共同課題として、声と運動をいっそう強化する必要があります。

本来の移行教育へ
 本来、移行教育とは、養成停止の段階で、すべての准看護師を対象に実施するものとされていました。
 看護制度の一本化、准看護師養成停止が実現されれば、准看護師全員を対象とした抜本的な措置、真の意味での移行教育へとすすむことができます。

制度問題をめぐる経過

92年日本医労連「看護婦110番」
  →いわゆる「お礼奉公」なくす運動の推進
94年厚生省「少子高齢社会看護問題検討会報告書」
  実態を調査して、准看護師制度に結論を出すよう提言
96年厚生省「准看護婦問題調査検討会報告書」 (12月25日)
  (1)21世紀初頭の早い段階を目途に、看護婦養成制度の統合に努める
  (2)准看護婦資格を有する者が看護婦資格を取得できるための方策を講ずる
  (3)養成所の運営に関して直ちに改善すべき事項を指摘(勤務義務付け禁止など)
99年厚生省「移行教育に関する検討会報告書」 (4月21日)
  (1)就業経験10年以上を対象に、5年間に限った特別措置として行う
  (2)教育内容は31単位930時間(理論学習・放送大学と技術学習・移行教育所の二本建て)
厚生省「准看護婦の資質の向上に関する検討会報告書」 (6月24日)
  養成所カリキュラムを1500時間→1890時間、教員数の増など
01年日本医労連は、「2002年通常国会中に実施のメドをつけよう」と提起
02年移行教育の早期実現をめざす中央情報センターを結成(2月27日)
国会行動や地方議会決議、アピール賛同など運動のいっそうの強化
厚生労働大臣が「いよいよ動かし始める」と答弁(3月20日)
移行教育の早期実現を求める決起集会を国会内で開催(4月24日)
  超党派の国会議員や著名人も参加
日本看護協会が「2年課程通信制の弾力的運用」を提案(総会へ向けて)
  就業経験が長いことを理由に、内容を軽減
  (臨地実習は7分野ごとに1レポートへ、放送大学等の単位の認定)
厚生労働大臣が04年4月開始と答弁 (7月15日、参議院決算委員会)
  (1)平成16年度から開始をしたい
  (2)2年課程通信制の運用をできるだけ弾力化したい
  ※移行教育検討会が決定した内容とは違う方法となった
2年課程通信制の「概要案」が明らかに(11月29日)
日本医労連・抜本見直しを求める声明(12月5日)
パブリック・コメントはじまる(12月20日、概要案は一部修正)
  全国から声を集中
03年省令改正が公布される (3月26日)
  「1単位1レポート」は標準に緩和されたが、厳しい内容に
放送大学等の対応科目等も明らかに (5月)