看護師メッセージのまとめ
ガマンも限界! 看護師ふやして
2004年4月
日本医労連看護闘争委員会

 いま看護の現場は、かつてない過密な労働実態となっています。看護師は疲れきり、患者の安全と看護内容にも大きな影響が出ています。
 こうした下で、看護師と患者の置かれた実態を明らかにするため、私たちは2003年秋に、「看護師メッセージ運動」にとりくみました。現場で働く看護師たちに、その思いや実態、願いをつづってもらったのです。「メッセージ運動」は全国でとりくまれましたが、日本医労連本部には年明けまでに、4,841名分が集約されました。
 このまとめは、そのメッセージ内容の特徴点をまとめたものです。どのメッセージも、看護師の置かれた悲惨な現状と看護への熱い思いがつづられており、いわば看護師の魂の叫びとでも呼ぶべき内容となっています。紙数との関係で抽出して221名分のみとせざるを得ませんでしたが、「事例集」として掲載しています。熟読いただければ幸いです。
 このメッセージ集が、看護師の実態を世に問いかけ、看護師が切実に願う大幅増員とゆきとどいた看護実現へとつながっていくことを切に願って止みません。

絶対的な人手不足

 看護師メッセージの第1の特徴点は、絶対的な人手不足だということです。いま看護現場は、単に夜勤がつらいとか、ここをちょっと改善してほしいという程度ではなく、とにかく人手が足りずどうにもならないということが綿々とつづられています。
 「メッセージの記入内容の分類集計」(集計表を後掲)でも、「人手不足・増員」にふれたものが83.3%と圧倒的でした。ちなみに以下は、「医療・看護内容への影響」46.5%、「医療事故の不安」28.8%、「健康問題」23.4%、「時間外労働」19.8%、「夜勤人員と体制」12.4%などとなっています。

 とにかく忙しすぎて、時間内に仕事が終わらない。昼休みも短縮している。家に帰ると、疲れすぎて何もする気にならない。スタッフが少ないのに増やしてもらえないし、一体いつまでこの状態が続くのか。いつまで我慢すればいいのか(事例26)
 毎日1分1秒のゆとりもありません。ひたすら緊張の中で仕事を必死におこなっているのが現状です(事例32)
 業務をこなすだけで精一杯の毎日。あーせめて2〜3人看護師が多ければ……、と思いながら働く毎日(事例74)
 1分1秒を争うような忙しさが朝8時からずっと続き、夜は9時〜10時まで残業。準夜勤務では朝5時過ぎとか、深夜勤務で昼休みの時間まで残業など。1人増えると、仕事がずいぶん楽になったと実感できるのに、今は3人も4人も5人も6人も不足していると実感する(事例84)
 勤務時間開始になって15分後に食事と休憩を取らなければならない準夜が、看護師が不足しているいい証拠じゃないだろうか? 2人じゃ交代で休憩する余裕がないから、日勤者がいる時間帯に休憩しなければならないんじゃないですか?(事例169)

仕事に追いまくられ、もう限界!

 第2の特徴点は、人手不足とまさに表裏の問題ですが、仕事に追いまくられ、疲れ果てているということです。かつてない過密労働となり、看護師は限界状態にまで追い詰められています。

 毎日残業ばかりで疲れています。いまや食べることと寝ること以外、楽しみがなく悲しいです。今のままでは、患者さんによい看護が提供できないばかりか、患者さんを不快にさせ、余裕のなさから医療事故を起こし、患者さんの命を脅かす危険性があります(事例6)
 食事もままならず、1口食べてはナースコール対応に追われる。自分がトイレに入っている暇もない。看護師はこんな状態で働かされているのです。私たちは生身の人間なのです。限界があります!(事例13)
 忙しさから解放してください。患者の話を聞く時間もないし、仕事も雑になります。看護師の体はいくつあっても足りません。(事例105)
 何かあってからでは遅いのに、わかってもらえない! 毎日ストレスがたまり、ほっとする間がない。疲れているとき、自宅で食事をし、片付ける前に机の上の食器を横にずらし、眠ってしまったこともある。朝は朝で、起きる体がだるく、「あーあ、体がだるい。痛い」と言って、起きなければいけない。精神的、肉体的にやっていけない。(事例119)
 誰がミスをしてもふしぎではない毎日。「早く早く」とせかされ、何かにおわれる毎日。勉強会、研修会、委員会と、いったい仕事と関係ないのはどれ? いつ休んで、いつ働いて、今日が何日で、何曜か、なぜこんなに振りまわされるのか。こんなことあと何年続けさせて、あと何年、私達看護師を苦しめるのか(事例132)
 分きざみで業務をこなし、看護にあたっています。いろいろ訴える患者様の話をきく時間も十分にとれず、後ろ髪を引かれる思いで次のナースコールの対応に走らなくてはなりません。「ちょっと待ってて下さいね」と何度言わなくてはいけないことか……。椅子に座ったのはカルテ記入の時だけという時も少なくありません(事例134)
 夜間鳴り響くナースコールの数、ピッチを切っても切っても次々鳴る。思わず目を疑った。ピッチの画面に「混み合ってます」と出た。「アレ?」と廊下に出たら、病室の前のランプが4箇所で光っていた。1人で4人同時にはいけない。心の中で叫ぶ。「私が行くまで、勝手に動いて転ばないでよ!」と(事例177)

安全と患者の看護にも深刻な影響

 第3の特徴点は、人手が足りないことが、患者の安全や看護内容にも深刻な影響を与え、患者に我慢を強いているということです。看護師は安全でゆきとどいた看護ができないことに歯ぎしりし、心を痛めています。

 どんなにすばらしいマニュアルを作っても、そのマニュアルどおりにやるためには、少人数ではできません。これでは、正面きって『医療事故をおこせ』と言っているのと同じです。患者が安全でゆきとどいた医療や看護を受ける権利があるなら、私たち看護師には、その義務がある、いえ権利がある。絶対に看護師を増やして下さい!! 私たち看護師に、もっと患者と接する時間をください!!(事例10)
 どの患者様にも安心で安全な入院生活を送って欲しいと思っているのに、現状では全くできません。看護師のいない新生児室で、赤ちゃんが泣いていても、泣いている赤ちゃんの声でお母様方が心を痛めて眠れなくとも、抱いてあげる余裕もないのです(事例87)
 もっとそばにいて、思うとおりにしてあげたいと思っても、準夜勤の2人では時間が許すはずもなく、次の患者さん、次の処置へと行かなければならない。2日後の朝、この患者さんは亡くなった。死ぬ間際のささやかな望みさえ、叶えてあげることができないくやしさ、腹立たしさ(事例94)
 余裕のある勤務をさせてください。私が相手をしているのは、人の命なんです。疲労がピークを迎えると、思考回路がうまく動かない状態なのです。私たちも人間なんです。人が眠る時間帯に起きていることさえ、本来大変なことなのです。なのに、心も体も病んでいる人たちに看護するのは、心や体が疲れきっていたらできないんです。もっと余裕のある仕事をしたいです(事例109)
 心身共に疲れています。患者様に優しくなれません。笑顔の呼びかけは無理です。「良い看護サービスの向上を!」が、目標スローガンになっていますが、現実的に患者様の状態に比べ看護師不足で、患者様の満足する援助はできません。映画の“ああ、野麦峠”じゃないけど、昔の紡績女工よりひどい労働です。いつ、医療事故が起きてもおかしくないのです。“人にやさしく、ゆとりの看護”なんて、夢のまた夢です。情けなくて泣きそうになります。もうがまんできません(事例181)

身体も心も蝕まれて

 第4の特徴点は、肉体的疲労と健康破壊に止まらず、看護師の心までも蝕んでいるということです。人手不足で、仕事に追いまくられ疲れ果て、ゆきとどいた看護ができない中で、バーンアウトが確実に進行しているのです。

 毎日病院の中を走り回っている。自分の病気もあり、無理できないが、無理せずにはいられない状況。身体のあちこちが苦痛で悲鳴を上げている。のむ薬がどんどん増えていって、代わりに自分の寿命が縮んでいるような気がする。休みたい、具合悪いと言えない中で働いている。もう限界の状況、それでもなおかつがんばれという。何をどうがんばれば良いのか。最近は眠れずおかしくなりそう(事例7)
 毎日ストレスが多く、5年ぐらい前から、お酒を飲まないと、夜眠れなくなりました。家族にはアルコール中毒になると怒られますが、眠れない夜はつらく、また、「明日の仕事に差し支えては」と、お酒を飲んでしまいます。病人が病人を見ているようです。(事例67)
 病院は安全だと思っていますか? 私たちは安全だとは思っていません。毎日、事故を起こさないよう注意し、私たちの精神状態は本当に疲れ切っています。もちろん、看護師不足で体はボロボロ、くたくたです。そんな仕事を誰がしたいと思いますか? 家族には迷惑ばかりかけています。「そのうち、看護師はなり手がいなくなるのでは」と思います。私たちは我慢我慢で、毎日働いています。いったい、いつになったら、この我慢が楽になるのですか?(事例101)
 私は何をやりたくて看護師になったのか。立ち止まって振り返り、考えることもできない忙しさ。これでは患者様がかわいそう……。自分の病院に両親を入院させたくない。看護師が足りなくて、きっとかわいそうだから(事例103)
 業務に追われ、業務をこなしていくことだけで精一杯の毎日です。しないといけないことがドンドン増え、日々、強い緊張感と恐怖とプレッシャーで、身も心もボロボロです。ふと鏡を見ると、やつれた自分がいて、何のために看護師になったのかと、考えさせられます。自分の看護観とは全くかけ離れています。ただ、今は、自分のなりたかった看護師の夢にすがって、ひたすら頑張る日々です(事例147)
 自分の命をけずるような勤務は苦しすぎる。看護師はディスポじゃない! 8時間の通常勤務に引き続きの当直で、翌朝まで体を休める間もないなんて。24時間緊張の連続で、事故を起こしたら、やっぱり私の責任なんて(事例159)

家族にも多大な負担と我慢

 第5の特徴点は、看護師の家族にも負担と我慢を強いているということです。特に、子供への影響は深刻な実態となっています。

 残業の毎日で、我が家は父子家庭になりつつある。3交代勤務なのに、2時間も3時間も残業なんて……。せめて日勤の日くらいは家族と一緒に夕食を食べたい、と願うのは夢なのか??? 看護師を増やして、家族の団欒を返してください! 少しは母である時間をください!(事例77)
 子供の口ぐせ…「お母さん今日なに番。何時に帰ってくるの! 一緒にお風呂入れる? 一緒に寝れる? 明日はなに番!」と、毎日聞かれます。夕食の時間が遅くなれば寝る時間も遅くなり、疲れてご飯を食べずに寝てしまうこともあり、夜中に「お腹すいた」と目覚め、ご飯を食べることも。私だけではなく、家族の負担、ストレスがとてもつらいです(事例99)
 夜勤に行くときは、子供が「婦長さんに電話して、休ませてもらえないの?」と泣き出し、その子を振り切って出勤する気持ちは、なんとも言えません。小学生の子さえ、「夜勤でお母さんのいない日は淋しい」と、口にします。日勤であっても、帰宅は夜の8時、9時と遅く、子供たちと話す暇さえありません。看護師が増え、定時に帰れるようになりたいです。(事例118)
 しわ寄せが子供たちにいっています。保育園でも、いつも居残り組みの迎えのため、なかなか担当の先生と話しをすることもできません。おなかがすくため、迎えに行くといつも、「お母さん。おなかがすいた。早くご飯つくって」とせかされます。迎えが20時過ぎてしまうと、子供たちは、車の中で眠ってしまいます。ご飯も食べずに。土・日、日勤のために朝準備をしていると、「お母さん、今日も仕事? 私たちはまた留守番だね」と残念がります。なかなか家族でのお出かけもできず、また、学校行事の参加も全部はできません。(事例191)
 日勤の朝、夫が「今日は早かね」と、いつも尋ねる。私は「患者さんの状態によるよ。急患がこらっさんなら、早かけん。晩ご飯作るばい」と答えて家を出る。しかし、一歩家を出て白衣を着ると、仕事から仕事に追いまわされ、すぐ夕方になってしまう。18時過ぎれば、家のことも気になり、夫へ電話となる。「ごめんね。今日もほっかほっか亭の弁当にしとって。お願い」と言って、受話器を置く(事例192)

毎日数時間の残業、手薄な夜勤、休日出勤……

 メッセージを通して、あらためて具体的な労働条件改善の課題、問題点も浮かび上がっています。ここでは、具体的な事例は割愛しますが、指摘の多かった点を上げると次のようになります。

(1) 仕事が終わらず、毎日数時間の残業という状況が当たり前になっている。(しかも、残業代が払われないという指摘も)
(2) 人手不足で、病気でも休めない、有給休暇も取れない。
(3) 特に夜間の人員不足は深刻であり、夜勤体制の充実が急務であること。(鳴り止まないナースコール)
(4) 安全のチェックや記録に追われ、業務量が大幅に増えている。(そのための人員増がない)
(5) 委員会や研修、研究が目白押しで、時間外は言うに及ばず、休日出勤もかなり見られる

大幅増員は待ったなしの課題

 医療の高度化に加え、入院日数短縮や手のかかる高齢患者の増加などによって、業務量が飛躍的に増えている実態が明らかになりました。しかし、国が配置基準を据え置く中で、増員は厳しく抑制されており、それが看護師と患者をかつてない深刻な実態に追いやっているのです。
 「看護師メッセージ」を通しても、看護師の大幅増員が待ったなしの緊急課題であることが、改めて鮮明になったと言うことができます。
以上