「看護職員の需給に関する
検討会報告書」について

2000年12月25日
                            日本医療労働組合連合会

 本日、厚生省は「第5回看護職員の需給に関する検討会」を開催し、2001年から5年間の看護職員需給見通しを中心とした「報告書」を決定しました。本検討会は、現行の需給見通しが本年末で終了することから、新たな需給見通しを策定する目的で、本年6月に設置されたものです。
 新たな看護職員需給見通しは、本検討会が策定の基本的考え方として6月に示した「新たな看護職員需給見通しの策定に向けて」に基づいて、各都道府県が策定した見通しの積み上げ方式で決定されました。就業看護職員数は、2001年当初の約115万1千人から2005年末には約130万1千人(約14万9千人・13.0%の増)となっています。需要数は、2001年の約121万7千人から2005年に約130万6千人とされており、依然として看護婦不足が続く見通しです。

 この間の相次ぐ医療改悪や診療報酬抑制の中で、医療経営者は増員を厳しく抑え込んでおり、就労看護職員数の増加率は大きく鈍化してきました。1996年から2000年までの5年間では、約16万1千人(16.2%)の増加に止まる見込みです。新たな需給見通しは、最近5年間の伸びすら下回る見込みであり、最近の看護職員数抑制策の延長線上での計画に止るものと言わざるを得ません。
    
表)就業看護職員数の5年単位の推移とその間の伸び率
総 数 伸び率 病 院 伸び率
1980年末 564,177 28.06 391,872 33.80
1985年末 697,690 23.66 495,903 26.55
1990年末 834,190 19.56 602,190 21.43
1995年末 990,582 18.74 702,055 16.58
2000年末 1,151,000 16.20 761,000 8.34
2005年末 1,300,500 12.98 794,200 4.36
注)2000・2005年末の数値は、新たな需給見通しの
示す数値。2000年末・病院は医労連推計
   
 しかも、2001年から2005年の需要数の内訳を見ると、介護保険関係で468百人(32.8%)の需要増が見込まれる一方、病院は約254百人(3.3%)の増加に止まっています。病床数が2.3%減少見込みとなっている影響を考慮しても、5%台の低い伸びです。

 いま看護現場は、医療・看護内容の高度化に加え、入院日数の短縮やベッド稼働率のアップなどがすすめられており、看護婦の労働はいっそう過密になっています。
 日本医労連が今秋実施した「看護現場実態調査」の中間報告でも、慢性疲労8割、健康不安7割など、仕事に追われ、疲れきっている看護婦の状態が浮かびあがっています。「患者さんに十分な看護が提供できていない」56.6%、「ミスやニヤミスを起こしたことがある」93.9%など、忙しさと人手不足が医療・看護と患者のいのち・安全にも重大な影響を与えている深刻な状況です。こうした中で、67.8%の看護婦が最近仕事を辞めたいと思っており、その4割が退職後は看護婦の仕事に再就職しないと回答しています。

 本検討会の議論でも、看護現場は忙しくなっており、労働条件を改善して離職防止を中心に看護婦確保をはかっていく必要性が、多くの委員から指摘されました。そのため、「新たな需給見通しの策定に向けて」では、「質の高い看護への国民の期待に応えていく」とされ、勤務環境の改善による離職防止を中心に看護婦確保を図っていくという重要な考え方が取られました。具体的な労働条件についても、@夜勤は1人月8日以内、A「より手厚い看護体制」を組めるよう考慮(3人以上夜勤体制の推進)、B年休その他の休暇は容易に取得できるよう考慮、C妊娠・出産した者全員の産前・産後休業及び育児休業の全員取得などが盛り込まれ、Dさらに付随するデータ編で完全週休2日制と年休20日取得を含む年間休日数142日が示されました。これらは、日本医労連の要求と運動の一定の反映であり、今後に生かすべき重要なものです。

 こうした重要な考え方や労働条件項目が、新たな需給見通しの数字に反映しなかったのは、示された理念や労働条件改善項目を実現するための必要人員の算出方法や、それを確保する新たな施策が欠けていたためです。そのため、短期間での各都道府県毎の見通し策定とその積み上げの中で、現状の範囲内での数字に止まったのです。
 「報告書」は、今後の課題の項でも、「少子化傾向を踏まえれば、従来にも増して、離職の防止や再就業の促進に力を入れていかなければならない。多くの資源と時間を費やして養成した看護職員が就業後短い期間で離職してしまう現状は、国民経済的に見ても大きな損失」と指摘しています。しかし、2005年の退職者数は約7万1千人(離職率5.6%)の見込みであり、1998年の退職者数・約5万7千人(離職率5.3%)を上回っています。新たな需給見通しは、結果として有効な離職防止対策となり得ていないのです。

 日本医労連は、相次ぐ医療事故の背景としても指摘される日本の極端に少ない看護婦配置数を改善し、安全・安心の医療・看護を実現するとともに、看護婦の劣悪な勤務実態を改善し、働き続けられる看護職場をつくっていくために、「200万人以上看護体制」の実現を求めて運動をすすめてきました。
 「報告書」は、新たな需給見通しという数字の上では、良質な医療の提供を求める患者・国民と私たち医療労働者の要求に応え得ないものですが、打ち出された考え方や労働条件改善項目は、今後に生かすべき重要な内容を含んでいます。
 日本医労連は、本検討会が打ち出した労働条件の改善による離職防止という考え方や労働条件内容の実現を保障する具体的な対策を求めて、さらに患者・国民とともに21世紀に良質な医療・看護を実現していくため、職場からの増員闘争を基礎に、看護婦確保法・基本指針の実効ある見直し・改善や診療報酬上の対策など、200万人以上看護体制の実現を求める運動を引き続き強化していくものです。
                                      
以     上

看護職員の需給に関する検討会報告書
〜新たな看護職員需給見通しについて〜

平成12年12月25日

1,はじめに

 看護職員の確保については、平成4年に制定された「看護婦等の人材確保の促進に関する法律」及び同法に基づく「看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」を基盤として、離職の防止、養成力の確保、再就業の支援等の総合的な看護職員確保対策が実施されてきた。
 これらの施策の展開により、平成3年末に約85万8千人であつた我が国の看護職員就業者数は、平成10年末で約109万3千人と、現行の看護職員需給見通しに沿って順調に推移してきているところであるが、現行の看護職員需給見通しが平成12年末をもって終了することから、21世紀初頭における看護職員の計画的かつ安定的な確保を図るため、新たな看護職員需給見通しを策定する必要がある。 一方、近年、急速な少子高齢化の進行、高度医療の進展、平成12年度からの介護保険制度の実施、安心信頼できる医療への国民のニーズの高まり等の中で、医療制度の抜本改革が議論されるなど、看護職員を取り巻く環境は大きく変化してきているところである。 本検討会は、こうした経緯を踏まえて設置され、平成12年6月以降、都道府県の見通し策定作業を挟み、延べ5回にわたり、検討を進めてきた。今般、都道府県が策定した需給見通しを基に、全国レベルの看護職員需給見通しを取りまとめたので、検討会の意見を付して報告するものである。

2.策定の方法

 今回の看護職員需給見通しは、本検討会が本年6月に取りまとめた「新たな看護職員需給見通しの策定に向けて」(別添)を踏まえ、各都道府県が需要数・供給数を算定し、各都道府県毎の積み上げを基に、全国の需給見通しを推計した。
 需要数については、できるだけ地域の実情を反映することとし、各都道府県において実態調査等を踏まえて算出したものを基本とし、看護職員の就業場所(病院、診療所等)別に、推計して積み上げた。この場合、病床数については、病床過剰医療圈については増床がないこと、また、病床非過剰医療圈については必要病床数の範囲内において具体的に整備の計画がされているものを基本とした。なお、需要数については、当初、二次医療圈ごとに算出したものを基本として都道府県ごとに算出することを想定していたが、推計値の精度が確保できないこと等から、約半数の都道府県が二次医療圈ごとの算出を行わなかった。 また、供給数については、年当初就業者数に新卒就業者数及びナースパンクを通じた再就業者数を加え、退職等による減少数を減じて算定した。 なお、見通し期間については、医療提供体制が大きな変革期にあること、介護保険制度が施行後5年を目途として検討が加えられることとされていること等を踏まえ、5年間(平成13年から平成17年まで)とした。

3.新たな看護職員需給見通しについて

 全国の看護職員の需要と供給の見通しについては、平成3年に策定した前回の見通しよりも手厚い看護体制の実現、勤務条件の改善等を見込むとともに、介護保険制度の実施に伴う需要増を見込んだことから、平成13年では供給が需要を約3万5千人下回るが、平成17年には130万人前後で概ね均衡するものと見込まれる(別表1)
 一方、都道府県別の需要と供給の見通しについては、平成17年においても、供給が需要を下回る都道府県があるなど、差が見られるところである(別表2)
 本見通しにおける需要数と供給数についての主な考え方等は、次のとおりである。

○看護職員の需要
 看護職員の大半を占める病院における看護職員の需要については、病床数、勤務条件等の要因と密接に関連するものであるが、各都道府県が前提とした病床数(介護療養型医療施設に係るものを除く。)の合計は、平成13年で、148万5千床程度、平成17年では145万2千床程度(平成13年に比べ、約2.3%減)となっている。 勤務条件の改善に伴う需要については、週40時間労働制、産前・産後休業及び育児休業の全員取得、年次有給休暇、介護休業等に必要な需要を見込むとともに、夜勤体制については、複数夜勤と1人月8回以内を基本とした。
 また、医療の高度化、在院日数の短縮及び患者の状態等を踏まえて、安全で質の高い看護を提供するために、夜勤人数の増加や緩和ケア等専門的な業務を行う看護職員の配置など、より手厚い看護体制を組めるよう考慮した需要を見込んだ。
 こうしたことから、病院における看護職員の需要は、平成13年の約76万9千人から、平成17年には約79万4千人となり、病床100床(介護療養型医療施設に係るものを含む。)当たりの看護職員数は、平成17年には約51.2人(平成10年の実績は約4 5.1人)になるものと見込まれている。
 なお、今後増加が見込まれる介護保険制度の実施に伴う需要については、各都道府県介護保険事業支援計画等を踏まえ、平成13年の約14万3千人(総需要数の約11.7%)から、平成17年には約18万9千人(総需要数の約14.5%)に増加するものと見込んでいる。
 以上の結果、看護職員の総需要数としては、平成13年の約121万7千人から、平成17年には約130万6千人(平成13年に比べ約7.3%増)に達するものと見込んでいる。

○看護職員の供給
 看護職員の供給数に大きな影響を及ぼす新卒就業者数については、看護婦等学校養成所の新設、廃止等の予定、学生・生徒の入卒状況や進学、就業の動向等を踏まえて見込んだ。
 なお、新卒就業者数については、各都道府県が推計した域外への流出数の全国計と域内への流人数の全国計とに差異があつたので、同数になるよう調整を行った。
 ナースバンクを通じて再就業する者については、過去の実等を踏まえるとともに、今後のナースバンク事業の強化を考慮して見込んだ。
 また、退職等による減少数については、過去の実績等を踏まえるとともに、就業環境の改善等による離職防止効果を考慮して見込んだ。
 以上の結果、看護職員の総供給数としては、平成13年の約118万1千人から、平成17年には約130万人(平成13年に比べ約1 0.1%増)に達するものと見込んでいる。

4.看護職員の需給を巡る今後の課題

 新たな看護職員の需給見通しについては以上のとおりであるが、取りまとめに当たり、今後の課題を挙げれば、次のとおりである。
 まず、挙げなければならないのは、より手厚い看護の実現についてである。  
 今回の需給見通しの策定に際しては、手厚い看護体制の実現を強く意識したところである。また、今後さらに進行することが予想される患者の高齢化・重症化や医療内容の高度化・複雑化、在院日数の短縮等を踏まえると、一人ひとりの患者に対する単位時間当たりの看護の必要量は上昇していくものと考えられる。しかし、看護の必要量については、その測定方法やそれに見合つた看護職員の配置数の算定方法が確立していないこともあつて、今回は算定に組み込むには至らなかった。今後の課題である。
 また、これらの看護に関わる様々な環境の変化に加え、訪問看護や福祉分野等看護職員の就業の場の広がりによって、単に看護の量の増大にとどまらず、質の向上もより重要になることは言うまでもない。
 次に、地域別・医療機関別に見た看護職員の偏在についてである。
 看護職員の需給に関しては、全国あるいは各都道府県ごとの需給ギャップ
が縮小に向かいつつある一方で、例えば、都市部では概ね看護職員が充足傾向にあっても、郡部では看護職員の不足状態が続いているといった地域間格差、あるいは、病床規模や研修体制その他の違いから、同一地域内においても、就業希望者が集まりやすい医療機関とそうでないものとが生じるといった医療機関間格差があることも事実である。したがって、今後は、従来からの看護職員確保対策と併せて、地域性、個別性にも焦点を当てた施策も必要となつてこよう。
 供給面においても様々な課題が挙げられる。
 新卒就業者の確保については、学校養成所の統合や廃止などの動向を注視しつつ、教育環境を整えながら、必要な養成数を確保していくことが必要である。この場合、他の分野で働く社会人の看護分野への参画を推進することも必要であろう。 また、少子化傾向を踏まえれば、従来にも増して、離職の防止や再就業の促進に力を入れていかなければならない。多くの資源と時間を費やして養成した看護職員が就業後短い期間で離職してしまう現状は、国民経済的に見ても大きな損失である。子育て期間中の就業を社会で支える工夫や子育て終了後の円滑な再就業のための環境整備を図ることにより、看護職員の生涯勤務年数が高まっていくことが期待される。また、離職を防止し、再就業を促進するためには、ハローワークとの連携を図るとともに、ナースバンクの求人・求職のミスマッチについての分析や離職理由の分析を十分に行うなど、ナースセンター機能の強化に向けた関係者のより−層の努力が必要とされるであろう。
 また、看護職員の供給数を確保することと併せ、看護職員が看護に打ち込めるような環境を整えていくことは、安全で質の高い看護の提供の実現とともに、看護職員の離職防止対策としても効果が大きいと考えられる。
 さらに、今後も続く少子化傾向と高学歴化傾向の中で、看護を如何にして魅力ある職業分野とし、これを若い世代の男女に対してアピールしていくことができるかどうかということは、より根本的な課題といえる。医療の高度化、国民のニーズの多様化、安心信頼できる医療への期待に対応し、豊かな人間性、専門的な看護技術・知識などの教育の充実に努め、資質の高い看護職員の養成体制の確立を図るとともに、採用時研修を始めとする卒後研修の充実など若い看護職員が自信と誇りを持つて就業を継続できるような仕組みの構築など、関係各方面の様々な取組みを期待するものである。

5.終わりに

 国及び各都道府県においては、少子高齢化が進む5年後さらにはその先も見通して、看護職員を安定的に確保するため、前節で指摘した事項も踏まえ、引き続き、離職の防止、養成力の確保、再就業の支援等の総合的な看護職員確保対策を充実させるとともに、今後とも、より一層の対策の強化を図つていくことが必要である。また、都道府県によつては、需要見通しと供給見通しとの間に格差も見られるので、特に需要数が供給数を大きく上回る都道府県にあっては、特段の看護職員確保対策に取り組むことを期待したい。
 なお、今回の見通し策定に際しては、各都道府県によって需給の算定方法に差があったことから、今後は各都道府県の独自性を踏まえつつ、全国的な算定方法の在り方について検討を行うべきである。
 また、各種制度改正の影響を十分に見極めるに至らず、暫定的な数値を採用せざるを得なかつた都道府県があつたことも事実である。よって、今後、第4次医療法改正による看護職員配置、病床数、病床区分等の推移や介護保険制度の各種施設サービスー居宅サービスの実績等を踏まえて、看護職員の需要に大きな変化が予想される場合にあつては、5年間の見通し期間の終了を待たずに、適宜見直しを行うことも必要となろう。